“オレンジ”が見守った石橋の快進撃 3時間で埋まった2000枚…初勝利に「運命的」
昨春の選抜に21世紀枠で出場も初戦零封負けしていた
第106回全国高野球選手権大会は13日、甲子園球場で2回戦4試合が行われ、第2試合で初出場の石橋(栃木)が聖和学園(宮城)を5-0で破った。昨春の選抜に21世紀枠で初出場したが、初戦で能代松陽(秋田)に0-3で敗れており、念願の甲子園初勝利となった。アルプス席はおそろいのTシャツを着た約2800人の応援団で埋まり、野球部のカラーであるオレンジ一色に染まった。4安打完封した入江祥太投手(3年)は「すごく背中を押されました」と感激の面持ちだ。
オレンジ一色の壮観には“秘密”がある。学校がアルプス席のチケットを上限一杯の2800枚購入した上で、同校の生徒、父母を含む野球部後援会員らに割り当て、残った約2000枚を希望者に無料配布することにしたのだ。「今月10日の午前9時から学校のホームページで募集を始めたところ、わずか3時間で枠が埋まってしまいました」と、同校の宮下麻奈美教諭は反響の大きさに目を丸くしている。
スタンド以外でも、栃木県の県立高校が夏の甲子園に出場するのは2005年の宇都宮南以来19年ぶりで、しかも石橋が県内屈指の進学校とあって、地元・下野市のフィーバーは相当のものだとか。入江は「下野市全体で自分たちを応援してくだっさっていて、地元を背負ってやっていることを自覚し、士気が上がっています」とうなずく。
さらに盛り上がりに拍車をかけているのが、石橋の学校創立が甲子園球場の開場と同じ1924年で、ともに今年が100周年という点だ。大山優野球部長は「運命的なものを感じます」と口元を綻ばせた。
それにしても学業優先で、平日の練習時間が約2時間に限られている石橋が、21世紀枠での昨春の選抜はともかく、この夏に栃木大会で作新学院、国学院栃木などの強豪を連破し、甲子園に駒を進めることができたのはなぜか。
選手全員の意識の徹底がその理由の1つだという。入江が「今年から金属バットに低反発の新基準が設けられたこともあって、打撃でフライを上げないこと、強く低い打球を打つことを練習から徹底してきました。今日の試合を見ていただいたら分かる通り、フライアウトはほとんどありません」と説明する通り、この日は27アウトのうちゴロアウトが13(二ゴロ併殺打1を含む)を占め、以下、三振が6、フライアウトが4、ライナーアウトが3だった。
中学時代に慶応・小宅雅己、加藤右悟とともに全国優勝経験
投げてはエース、打っては4番の入江の存在も大きい。中学時代に県央宇都宮ボーイズで全国優勝し、当時のチームメートには、慶応(神奈川)で昨夏全国優勝メンバーとなった小宅雅己投手と加藤右悟捕手がいた。昨夏の慶応の全国制覇にも、入江は「本当に尊敬しますが、中学時代に一緒にやっていた仲間として、絶対に負けられないという気持ちが生まれました。あいつらはまだまだ上まで行っている。彼らより上はありませんが、並べるように頑張りたいです」と一歩も引く気はない。
前出の大山野球部長は「入江は意識が高く、昨年よりひと回り体も大きくなりました。試合では大舞台で場数を踏んでいるので、本当に頼りになります」とチームの大黒柱を称える。次戦は16日の3回戦で、優勝候補の呼び声が高い青森山田と対戦する。“オレンジ旋風”が100周年の甲子園を席巻するのか。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)