“無給覚悟”で中日に懇願「契約してください」 執念の開幕4番も…43歳に起きた異変
山崎武司氏は2012年に中日復帰…開幕スタメンも4月にインフルエンザで離脱
セ、パ両リーグで本塁打王に輝いた山崎武司氏(野球評論家)はプロ26年目の2012年シーズン、古巣・中日に復帰した。自らアクションを起こして、手に入れたチャンスだった。開幕スタメンをつかむなどスタートは上々だったが、4月にインフルエンザにかかって、流れが悪くなった。大看板のホームランは激減。クライマックスシリーズ(CS)では巨人の右腕に力でねじ伏せられて、球団フロントに「もう辞めます」と告げたという。
2011年に山崎氏は楽天・星野仙一監督から引退勧告されたが、拒否して現役続行の道を選んだ。楽天コーチ就任の話もあったが、首をタテに振らなかった。恩師の野村克也氏に「自分で決めろ、星野がどうこう言っとるとか、そんなことじゃないだろ」と言われて「まだやりたい」と現役にこだわる自分の気持ちを貫いた。「星野さんを見返したいと思ったし、他のユニホームでプレーして、お世話になった仙台の方にも元気で頑張っている姿を見せたかった」という。
中日復帰を模索した。「(編成担当だった)井手(峻)さんに『給料なんて1円もいらないから1年間、面倒見て下さい。契約してください』とお願いしました。『無理だ』って言われましたけどね」。それでも頭を下げ続けた。「最後は高木(守道)監督が『ええよ、帰って来い』とOKしてくれた。井手さんが高木さんに聞いてくれた。それで中日に帰れたんです」。年俸は3000万円(推定)。「年俸に関しては何も。『ありがとうございます』と言いました」。
2011年の中日はリーグ優勝し、CSも突破して日本シリーズに進出したが、そのシーズン限りで落合博満監督が退任。高木監督体制になることが決まっていた。山崎氏は、中日がソフトバンクに敗れた11月20日の日本シリーズ第7戦終了後にアクションを起こし、12月に入ってから10年ぶりの中日復帰が決まった。背番号は楽天時代と同じ7。「とにかく1年、意地を見せようと思った」。
トニ・ブランコ内野手と一塁のポジションを争い、43歳4か月で開幕スタメンを勝ち取った。3月30日の広島との開幕戦(ナゴヤドーム)に「4番・一塁」で出場して4打数2安打。「思いのほか、オープン戦から調子がよくてね、開幕もスタメンでヒットを打って、ホームランは出なかったけど、まぁ、そこそこやったんですよね」。だが、続かなかった。「4月にインフルエンザにかかってしまってねぇ……」。体調不良のため4月25日に登録抹消となった。
巨人とのCSで澤村に力負け…球団首脳に「もう辞めます」
「そこから戻ってきたら、全然力が入らなくて、こんなの初めてというくらいにおかしくて、スイングしても力が入らない。あれ、これヤッベーなと思ったら徐々に下がっていっちゃった。やっぱり年でね」。山崎氏が1軍不在の間にブランコが調子を上げたことも重なり、代打中心の起用に変わった。看板の本塁打は7月14日の巨人戦(ナゴヤドーム)にデニス・ホールトン投手から放った1本に留まった。それが通算403号で結果的に現役ラストアーチとなった。
「403本目は何か全然うれしくなかった。“俺、こんなんじゃなかったよ”ってそういう思いばかり。“俺、何でホームラン1本しか打てねーの”って、ドラゴンズに帰ってきて情けなかったね。この時期で1本っていったら、俺の商品価値なんか全くないじゃん。“7月になったら十何本打っていなかったら俺じゃないじゃん”って思ったホームラン。悔しい403本目になったね」。2012年は90試合、191打数40安打の打率.209、1本塁打、13打点に終わった。
中日はレギュラーシーズン2位。CSファーストステージでヤクルトを2勝1敗で破ったが、ファイナルステージでは巨人に敗れた。「ジャイアンツに3連勝して3連敗だったけど、俺はあの時、代打でいって、澤村(拓一投手)に完全に力負けした。もう手も足も出ないくらいに力負けしちゃって、その時に“ああ、俺は終わりだな”と思って、井手さんに『もう辞めます』と言いに行ったんです」と話す。
中日3連勝で迎えた10月20日の第4戦(東京ドーム)、0-2の6回2死満塁で山崎氏は代打で起用されたが、先発の澤村の前に空振り三振に倒れた。これがショックだった。「その時は井手さんに『お前、それでいいのか。お前が決めていいんだよ』と言われたので、時間をもらって、支援者とか、いろんな人に相談したら、全員に『やめるなよ、もっと頑張れよ』と言われたんです」。それで山崎氏は踏みとどまった。
「また井手さんのところに行って『もう1年だけ甘えさせてください。もう結果が出なかったら、来年(2013年)は身を引きますので、そこはケジメをつけますのでお願いします』と言ったら『いいよ』と言ってくれたんです」。こうして27年目のシーズンに入ることになった。山崎氏は「俺って“辞める、辞める詐欺”って言われるくらい『もう辞める』ってよく言っていたよね」と笑いながら振り返ったが、いよいよこれが現役最後の戦いとなった。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)