23歳左腕が苦しんだ違和感「ずっと痛かった」 続いた無援護…突き刺さった“一言”
オリックス・曽谷龍平の強靭なメンタル…「ここで逃げたらダメだな」
グラブをはめる瞬間でさえ、ビシビシと激痛が走った。「だけど、ここで逃げたらダメだなって。ずっと自分に言い聞かせてきました」。オリックス・曽谷龍平投手はプロ2年目の今季、先発ローテーションの一角を任され、シーズンを“完走”した。
右手首の異変に気がついたのは、5月末だった。「まだシーズンが始まったばかりで、せっかく先発登板のチャンスをもらえていたので。逃したくない……。その気持ちだけでしたね」。10月2日に神戸市内の病院で右手有鉤骨の摘出術を受けるまで、マウンドでは“仮面”を被り続けた。
「ずっと痛かったですよ。でも、1回でも『痛い』と思うと考えてしまうので。頭の中から、できるだけ消すようにしていました」
ポットからお湯をすすぐ際は、コップが持てなかった。サインペンを走らす時、色紙を持つ右手が痛んでも、応援してくれるファンを不安にさせないように笑顔を貫いた。激痛に耐え切れず、右手首にテーピングを巻いたこともある。捕手には「ふんわり返球お願いします……」と頭を下げた日もある。それでも、掴んだチャンスを絶対に離したくなかった理由がある。
真夏に胸に突き刺さった言葉、切磋琢磨する仲間の存在
曽谷は2022年ドラフト1位でオリックスに入団。プロ1年目の昨季は10試合に登板して1勝2敗、防御率3.86を記録した。プロ初勝利を掴んだのは、7度目の先発マウンドとなった10月9日のソフトバンク戦だった。
「勝てない時期を経験しましたから。1つでも多く、チームの勝ちに貢献したいという思いだけでしたね。無心になるというか……。目の前に立っているバッターを抑えることだけを考えていました」
プロ2年目の今季は20試合全てで先発マウンドを任され7勝11敗。安定した投球を続け、防御率は2.34をマークした。7月12日のロッテ戦で7回途中1失点(自責0)で敗戦投手になってから、6戦6敗。期間中で36回1/3を投じたが、打線の援護は「1」だった。それでも「バッターも一生懸命なんです」と言い訳にしなかった。
真夏を迎える頃、大阪・舞洲での投手残留練習中に“一言”だけ呟いてしまった。「どうやったら勝てるんかなぁ……」。隣でその言葉を聞いた山下舜平大投手が目を逸らさずに言った。「僕なんて……。もう、1年くらい勝ってないですよ」。2学年下、22歳の言葉が胸に突き刺さった。ランニングメニューの直後で座り込んでいたが、すぐに立ち上がった。8月18日、山下がおよそ1年ぶりの勝ち星を掴んだ時は、自分のことのように心から喜んだ。
8歳の頃、将来の自分に書いた手紙には「おとなになったらプロやきゅうにはいりたいです。20さいになったらオリックスにはいってください」と記した。15年が経った今、手術痕を優しく撫でながら、そっと言葉を前に出す。「シーズンの最後まで投げ切れたので、少しだけ自信になりましたね」。夢を叶えるのは、いつだって自分自身だ。
(真柴健 / Ken Mashiba)