横浜の快進撃を支える2人の投手 6年ぶりの選抜へ…エースが感じた1年生の“成長”

横浜・奥村頼人(左)と織田翔希【写真:大利実】
横浜・奥村頼人(左)と織田翔希【写真:大利実】

最速148キロ、順調に成長を遂げる1年生右腕・織田翔希

 26日に神奈川県で開幕する秋季高校野球関東大会。2年ぶりに秋の神奈川を制して、開催地1位で臨むのが横浜だ。神奈川大会の戦いを振り返ると、エース左腕の奥村頼人(2年)、最速148キロを誇る速球派右腕・織田翔希(1年)を中心とした投手陣の安定度が際立っていた。6試合で失点わずかに3。それぞれが力を発揮できれば、6年ぶりの選抜出場が見えてくる。

 東海大相模との決勝戦、村田浩明監督が先発のマウンドに送り出したのは背番号10の織田だった。北九州市立足立中時代に最速143キロを叩き出したストレートが売りで、高校入学後も順調に成長し、最速148キロに到達。軽い力感のフォームから、140キロ台中盤のストレートをコンスタントに投げ込む。

 準々決勝で対戦し、7回途中までに10三振を奪われた武相の豊田圭史監督が「織田くんのボールはキレがあって、角度があって、ボールが強い。バットを振り回しても当たらない。でも、(コンパクトに)振り回さなくても当たらなかった。なかなか高校生ではさばけないですね」と語るほど、1年秋の時点で高いポテンシャルを発揮している。

 これまではストレートとスライダーで投球を組み立てていたが、東海大相模戦では「相模のバッターはどんどん振ってくるので、緩急を使いたかった」とチェンジアップを解禁。圧巻だったのは4回に、主砲・金本貫汰から奪った三振だ。1ボール2ストライクと追い込んだあと、低めに沈むチェンジアップで空を切らせた。

「腕が振れて、落差もあって、いいチェンジアップを投げられたと思います」

 6回に不運な安打もあり、2点を失ったが、先発としての役割を十分に果たして、7回途中から先輩の奥村にマウンドを譲った。奥村は140キロ前後のストレートを軸に、スライダー、チェンジアップを混ぜる巧みなピッチングを披露。打者8人を無安打に抑え込み、神奈川の頂点を勝ち取った。

エース奥村頼人がキャッチボールを通して感じた後輩の成長

 織田にとって、先輩・奥村はどんな存在か。「後ろにエースの奥村さんがいるので、めちゃくちゃ安心できます。自分はいけるところまでいく。本当はもっと長いイニングを投げられるようになりたいんですけど。ピッチャー陣はいつも一緒にいて、奥村さんは寄り添ってくれるというか、頼りがいがあって、信頼できます」。

 じつはこの2人は、織田が入学してからのキャッチボールパートナーでもある。奥村にしてみれば、その手でボールを受け続けてきたからこそ、実感できることがある。「キャッチボールをやっていて、織田がみるみる成長しているのが分かります。春はあまり怖さがなかったんですけど、最近はボールを捕るのが怖いぐらいです」。

 中3で183センチ、62キロだった華奢な体型は、寮生活でこまめに補食やプロテインを摂取する習慣がついたことで185センチ、71キロにまで成長している。性格は、「天然で宇宙人」とは奥村。人懐っこく、先輩から愛されるキャラだ。

「織田は敬語もちゃんと使ってきて、日常生活からやるべきことをやっています。もうちょっと、しっかりしてほしいところもあるんですけど」と笑う。

変化を求め、奥村頼人が新チームから継続している朝練

「頼れる人」と書いて、奥村頼人。字の通りの由来である。前チームからエース番号を背負っていたが、絶対的な力は持っていなかった。

「まだ自分に自信がなくて、自信がないまま投げた結果が春と夏の負け。春は準決勝で東海大相模の藤田(琉生)さんに3ランを打たれ、夏は武相戦、東海大相模戦と自分が思うようなピッチングができませんでした」。いずれも球場は横浜スタジアム。「ハマスタにいい思い出はまったくない」と語る。

 自分を変えるために、夏の新チームから始めたのが朝練だ。チームの朝練よりも30分前にグラウンドに行き、高山大輝コーチ(部長)が打つアメリカンノックを受けたり、フィールディング練習をしたり、下半身を中心に鍛え上げる。秋の大会に入ってからも、試合日以外は必ず続けてきた。

「“特別強化”という感じでやってきました。自分もそういう取り組みが必要だと思っていたんですけど、高山コーチからお話をいただいて、納得して始めました」。手を抜きたくなったこともあるというが、毎日続けてきた。

「高山コーチが『またハマスタで負けるのか!』とか厳しいことを言ってくるので、ナニクソと思いながらやっています。苦しいからといってやめてしまったら、また負けてしまうので」。やり続けてきたことが、秋の好投につながり、神奈川大会は無失点で終えることができた。

「織田みたいに速い球は投げられないですけど、いろんな変化球を使ったりして、無失点に抑える。目指すのは勝てるピッチャーです。あいつ(織田)は失点していますけど、自分はまだ無失点なので」。スピードでは敵わないことを自覚している分、ピッチャーとしての総合力で勝負をする。

神奈川大会を制した横浜ナイン【写真:大利実】
神奈川大会を制した横浜ナイン【写真:大利実】

投手陣は家族のような存在「いいライバル」

 はじめは高山コーチと奥村頼の2人で始めた朝練だったが、続けていくうちに人数が少しずつ増えて、その取り組みが投手陣全体に広がっている。「前田(一葵)、片山(大輔)、若杉(一惺)とかも一緒にやるようになっています」。

 この秋、鮮烈デビューを果たしたのが同じ2年生の左腕・片山だ。最速143キロを誇る速球派で、投手陣の指導を担当する小山内一平コーチは「3年夏に150キロを投げるだけのポテンシャルを持っている。練習への取り組みが変わってきて、周りからの信頼度も上がっています」と、大きな期待を寄せている。

 関東大会は2回戦からの登場となるため、ひとつ勝てば選抜出場が見えてくるが、この秋の目標はそこではなく、明治神宮大会での優勝だ。奥村が決意を語る。

「新チームが始まる時から、第1章、第2章、第3章と目標を決めていて、県大会優勝で第1章は完結できたので、関東優勝で第2章、神宮優勝で第3章を完結させていきたいです」。投手陣が少ない失点で試合を作ることができれば、そう簡単に負けることはない。

「投手陣は寮生活をしているので、仲が良くて、本当に家族のような存在。織田は弟みたいな感じでもあり、ライバルでもあります。片山は最近、球速が上がっているのでちょっと煽ってくるんですけど、いいライバルです!」

 家族と考えた時、奥村自身はどの立場になるのか。「ぼくは長男として、投手陣を引っ張っていきたい」。ともに切削琢磨しあいながら高みを目指し、最強の投手陣を作り上げる。

(大利実 / Minoru Ohtoshi)

○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。

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