「埋めるのが目的」にならない野球ノートの書き方は? 慶早兄弟の思考深めた“体裁”

2人で計4度甲子園出場の兄・鈴木裕司さん(左)と弟・健介さん【写真:伊藤賢汰】
2人で計4度甲子園出場の兄・鈴木裕司さん(左)と弟・健介さん【写真:伊藤賢汰】

ともに2度甲子園出場…鈴木裕司さん、健介さん兄弟が野球ノートで養った「考える力」

 書くことで思考が整理され、質の高い練習ができるようになる。野球ノートをつけていると、自分のプレーや、今置かれている現状を客観的に見ることができ、技術の向上にもつながる。ただ、どんなノートを選び、何を書けばいいか、悩む選手も多いのではないだろうか。慶応義塾高(神奈川)、早稲田実業(西東京)でそれぞれ甲子園に出場し、大学野球でも活躍した鈴木裕司さん、健介さん兄弟が、野球少年・少女たちに向けて「野球ノートの書き方」のアドバイスを送る。

 小学校時代から野球ノートをつけ、慶応高から慶大に進んだ兄・裕司さんは、1日のタイムスケジュールや、睡眠状態、心技体で良かった点、課題など、書くことがあらかじめフォーマット化されたものを使用していた。しかし、学年が上がるにつれ、自由に書くことができるキャンパスノートに変更。大学での練習中には、手の平サイズのものをユニホームのポケットにしのばせ、ミーティングの内容や、技術面で気づいた点などをその場でメモし、野球ノートを書く際の参考にしていた。

「野球ノートは2冊使い分けていました。グラウンドで使うものとは別に、部屋で寝る前に書く野球ノートは、明日の目標みたいなものを決めて、翌朝それを見返してから練習や試合に臨んでいました。1か月後にメンバー選考で選ばれるためには何をしないといけないのかを逆算しながら、守備でこうしよう、打撃はこういうことを工夫しよう、ということを書いていました」

 早実、早大で活躍した弟・健介さんも、小学校時代から野球ノートをつけ始めた。兄と同じく、行き着いた“理想の野球ノート”は、横罫が引かれただけのキャンパスノートだった。

「フォーマット化された野球ノートを使用したことはありますが、形骸化してくるというか、あまり続いた試しがなくて。何かを書かないといけないというか、毎日埋めること自体が目的になってしまう気がしていました。その時々によって書くことは結構変わると思っています。良かった日もあれば、悪かった日もあるし、メンタル面や技術面のこともある。その日その日に自分にとって必要なことを、自分で考えて書くべきかなと思っています」

兄弟で手がけたオリジナルノートとグラブ【写真:本人提供】
兄弟で手がけたオリジナルノートとグラブ【写真:本人提供】

2人の思いが詰まったオリジナルノート「考える野球人になろう」

 野球ノートで毎日思考を整理し、目標へと向かっていった結果、高校では兄弟ともに春夏2度の甲子園に出場。大学卒業後、裕司さんは大手酒類メーカー、健介さんは大手広告代理店に就職した後も、ノートにその日の思いを記し続け、ビジネスに役立てている。

 今年2月には兄弟で「YK BROTHERS」というブランドを立ち上げ、グラブの製造、販売を手がける。初年度の目標販売数もあっという間に達成でき、順調に進んでいるという。また一方で、考える野球人を応援するためのオリジナルノートの開発も手がける。2人の思いが詰まったシンプルな横罫のA5サイズで、野球ノート以外にも様々な用途で使用が可能。表紙部分には「考える野球人になってほしい」との思いから、ブランドのコンセプトである「BE A THINKER.」の文字が浮かぶ。

「書きながら自分の頭の中を整理したり、大事なことをメモするのがノートの役割だと思っています。社会人になってからもノートを書く習慣は続いており、加えて、文字でずっと書いていたら、だんだん自分の思考がわかってきたので、これも小さい頃から書いていたお陰なんだろうなと思っています」(裕司さん)

 2人は、これまで記してきた野球ノートを今でも大切に保管して、事あるごとに見返すという。デジタル化が進む現代で、自筆による世界に一冊だけの野球ノートは、きっと明るい未来を照らす道標になる。

(内田勝治 / Katsuharu Uchida)

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