骨弱い成長期球児の「故障リスク」をどう減らす? “怪物の疲労骨折”から学んだ教訓
中学時代の佐々木朗希の故障を学びに…少年野球の「強化と怪我予防の両立」
怪我をしやすい中学生を指導する上で重要視されるのが、「強化と怪我予防の両立」だ。岩手・大船渡市立東朋中軟式野球部(東朋野球クラブ)でコーチを務める鈴木賢太さんは、「速く走ったり、速いボールを投げたりと強いエネルギーを発する力があるということは、その分怪我のリスクがあるということ。リスクを下げるためのトレーニングをしないといけない」と話す。かつてはがむしゃらに「強化」を追い求めていた鈴木さんが、そう考えられるようになった背景には、ある明確なきっかけがあった。
「スポーツをうまくなりたいと思って、『勝ちたい』という目標に向かって取り組むと、どうしても怪我はついてくる。特に中学生は身長が伸びる時期で骨も弱いので、負荷をかけると怪我をする。体が硬くなって、小学生の頃までできていた動きができなくなることもあります」
例えば小学生の頃までできていたブリッジが、できなくなる中学生は少なくない。中学生になるとボールが大きくなり、塁間や打席とマウンドの距離も広がる。その一方で、体が硬くなっているにもかかわらず以前と同じイメージで思い切り腕を振ると、怪我のリスクは高まる。鈴木さんはこれを防ぐための「柔らかさを維持したまま体の強度を上げるトレーニング」を、東北各地の強豪高校を回って見学する中で学んだ。
「ボールを投げる」「バットを振る」といった動きは、日常生活ではしない特殊な動き。腕はもちろん、動きに関わる胸郭、肩甲骨、脇腹、股関節を重点的にケアする。ただ中学生は「地道なことは嫌がり、人前でできない姿を見せたくない年代」でもある。
そのため、複数種目のエクササイズを数セット繰り返すサーキットトレーニングに、長座体前屈の形に近づけながら歩くなどの怪我予防の動きを組み込んだり、あえてレベルを落としたメニューから始めさせたりして、「練習メニューに怪我予防を落とし込む」工夫を凝らしている。
同じ練習をしても“怪我をする選手”と“怪我をしない選手”がいる
また鈴木さんは「怪我を隠してでもやりたいという願望だけではやらせない」と、無理はさせないことを心がけている。少しでも痛みを感じる選手には「できることをやろう」と伝え、練習中は体の異変や痛みをかばう様子がないか、1人1人あらゆる角度から見てチェックする。
以前は「若い子は、とことんやればやっただけ良くなる」と考えていた鈴木さんが「オーバーワーク」に注意を払うきっかけとなったのが、ドジャース移籍が決まった大船渡一中時代の教え子、佐々木朗希投手の怪我だ。
中学2年時、当初は股関節の痛みを訴えていたが、のちに腰の疲労骨折と判明。医師からは「怪我をしたまま投げさせることもできるが、将来痛みを抱えたままプレーすることになるかもしれない」と告げられ、鈴木さんは「完治するまで投げさせない」決断を下した。
「同じ練習をしても“怪我をする選手”と“怪我をしない選手”がいることを知らされ、負荷のかけ方を落とさないといけないケースもあると勉強させてもらいました。今は医療の力や、整骨院に通っている親御さんのアドバイスにも頼りながら怪我の予防に努めています。また中学生はつらいことを避けたい年代なので、痛くてできないのか、ズルをしているのか、サインを見落とさないよう常にアンテナを張っています」
佐々木の怪我は防げなかったが、鈴木さんにとっては考えを改める大きな転機になった。“怪物”から授かった教訓を胸に、「アクセルとブレーキを使い分ける」指導を続ける。
(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)
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