肘故障→荒れる送球「ボールを見ると冷や汗」 イップスの悩みに関わる“極端な特徴”

イップス経験者が指導の道へ…白川峻也氏がエラー動作の原因とみる“柔軟性”
当たり前にできていた動作が突然できなくなる「イップス」。明確な治療法は確立されておらず、メンタルが原因で陥ると考える指導者も多いが、野球塾「White Baseball Academy」(茨城県つくば市)代表の白川峻也さんは、自身の経験をもとに「動作エラーの原因を突き止めて改善するのが克服の最短距離」と持論を展開する。少年野球からドラフト候補、プロまでを指導する中、日頃から選手の「動作」に着目し、イップスの克服に努めている。
白川さんは、東海大甲府(山梨)時代に捕手としてプレーしていたが、肘を故障して一塁手に転向した。しかし、手術後にイップスを発症し、三塁への送球が2バウンドになるなどプレーに支障をきたすようになった。「ボールを見ると冷や汗が出るレベルで、キャッチボールをするのも嫌になりました」と当時を振り返る。
その状態は鶴見大(神奈川)に進学後も続き、周囲から「力を抜け」「楽に投げろ」といったメンタル面のアドバイスを受けたものの、一向に改善の兆しが見られず。しかし、ある指導者に動作分析をしてもらった上でストレッチや投げ方を教わると、一時的にイップスを克服できたという。それを機に「自分がした経験を、他の子たちにさせたくない。今度は自分が知識をつけて選手の悩みを解決しよう」と思い立ち、指導者の道に進んだ。
大学4年時から指導を始め、同時並行で解剖学を学んだ。大学卒業後は野球塾を運営する会社に就職し、その後独立。イップスに悩む選手と接する中で、ある気づきを得た。

体の極端な柔らかさ、硬さが「投げられないかも」の素と白川氏
「イップスの“原因”は体が極端に柔らかいか、極端に硬いか。メンタルというよりは動作にエラーが起きてしまっていて、動作エラーが起こるから『投げられないかも』という心になる。そのため、メンタルではなく“動作”を修正した方が、投げられる感覚を取り戻しやすくなると考えています」
自身を顧みると、そもそも体の硬さが動作エラーを引き起こし、それがメンタルの不調につながっていた。同様に、柔軟性に起因する動作エラーをきっかけに、イップスを発症する選手が多いことに気づいたのだ。
「動作の修正」を心がけるようになってからは、ウオーミングアップの段階から、選手の立ち姿や歩き方を観察し、エラーとその原因を見極めている。なぜ肘が上がらないのか、なぜ動きが止まるのか。培った知識を根拠に説明し改善方法を伝えると、徐々に克服に向かうケースが増えてきたという。
「野球は本来めちゃくちゃ楽しいスポーツ。『投げたいのに投げられない』と苦悩する時間をなるべくなくしてあげたい」と白川さん。「美談になってしまうかもしれませんが……自分は選手の笑顔を見るのが好きなので。指導を通じて一人でも多くの選手に『球速が上がった』『イップスを改善できた』と笑ってもらえるよう努力します」と力強く語った。
(川浪康太郎 / Kotaro Kawanami)
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