まさかの選抜絶望「負ける発想がなかった」 修学旅行も行けず…鼻がへし折られた“大誤算”

元中日・野口茂樹氏、高校1年夏の愛媛大会先発も敗退
元中日、巨人投手の野口茂樹氏は1990年、愛媛県立丹原高に進学した。1回戦で敗退したが、1年夏の愛媛大会では先発を任された期待の左腕。1年秋からエースとなって年々、力をつけた。合わせてチームも強くなっていったが、それに大きく役立ったのは、「攻めダルマ」の異名を持った蔦文也監督率いる徳島・池田高など強豪校との合同練習だったという。「そこで学んだ練習方法が(丹原の)練習に追加されていって、きつかったですけどね」と懐かしそうに話した。
東予東中3年の時にエースとして愛媛県中学総体優勝。有力高校からも注目された野口氏は、丹原高で1年時から頭角を現した。「軟式から硬式になって、ボールが滑るというイメージがあった。若干重いし、慣れるまでには時間がかかりましたけど、体力がついてくると投げやすくなってきましたね」。1年夏の段階ではまだまだ手探りの状態だったようだが、ベンチ入りを果たすどころか愛媛大会1回戦に先発を任された。
「先輩がいたのに投げさせてもらったんですよね。打たれて最後、代わりましたけどね」。試合は松山聖陵に1-8で敗れた。「結局、行けなかったですけど、監督は僕らの代で甲子園に行くつもりで考えていたようです」。当時、丹原高を率いていた井上伸二監督は、1981年夏の甲子園に愛媛・今治西の主将として出場、その後、筑波大を経た新進気鋭。中学時代から好投手と評判だった野口氏への期待も大きかったからこそ先発に起用し、経験を積ませたのだろう。
野口氏にしてみれば悔しい敗戦になったが、それもバネになった。1年秋からはエースとなり、鍛錬にも励んだ。1991年、2年の夏は成長した姿も見せた。丹原は1回戦・弓削に7-0、2回戦は伯方に8-0と勝ち上がり、3回戦では強豪・松山商を9-6で撃破した。準々決勝は新居浜西に1-3で惜しくも敗れたが、野口氏は4試合32イニングで40奪三振をマークした。「松山商に勝ったのに次で負けて、もったいなかったですけどね」。
着実にステップアップし、進化した。「僕の高校の時の考えは1年の時は2年、3年に打たれるのは当たり前、2年になったら、先輩に打たれるのはしょうがないけど、同学年が出てきたら絶対抑える。3年になったら誰にも打たれないと思って投げていました。高2の時には、遠投で113(メートル)とか投げられたので、そこそこスピードもね。2年の秋くらいには140(キロ)は出ていたと思います」。
選抜狙った2年秋、同学年が修学旅行中の試合でサヨナラ負け
目標はもちろん、甲子園。3年生が抜け、最上級生となった2年秋は春の選抜切符をつかむつもりだった。「新人戦とかも全部負けなかったんでね。負ける発想がなかった」という。だが、そう甘くはなかった。丹原は愛媛大会で早々に敗れた。「何回戦で相手がどこだったか忘れたけど、序盤にミスが重なって3点取られて追いついて、最後は2死三塁から左バッターに真ん中高めの真っすぐをカチンと一、二塁間を抜かれてサヨナラ負けでした」。
まさかの敗戦。「ちょうど東京への修学旅行の時で、僕らは試合に勝っとくわと言っていたんですけど、その次の日に負けちゃって……。修学旅行中に僕らは学校に行って勉強して、練習して、ホント大誤算でした」。これもまた奮起材料にするしかなかった。丹原・井上監督は練習内容もどんどんグレードアップさせた。その基になったのが池田高など強豪校との合同練習&練習試合だ。
「監督が頼んでくれて、そういうのもやれたんです」と野口氏は恩師に感謝する。「だって、こっちは無名校ですよ。そんな高校が池田高校と合同練習なんて普通できないですよ。監督が力を入れてくれたと思います。まぁ、丹原も田舎ですけど、池田高校はもっと山でしたけどね。でも練習はきつかった。で、それを機に僕らの練習もきついのが当たり前になった。いろんな高校に行って練習方法を学んだら、それが追加されていったんです」。
そんな練習の積み重ねが丹原のチーム全体のレベルをさらに上げた。「実際、そのおかげで強くはなったんでね」。一冬を越して、野口氏の成長はさらに著しかった。球速が上がったストレートに加えて、いったん上にいって曲がり落ちる感じのカーブは超一級品だった。「だいたい三振を取るのはカーブでしたね」。注目度もアップした。プロスカウトの間でも「丹原に、いい投手がいる」と評判になっていた。
(山口真司 / Shinji Yamaguchi)
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