“経験者目線”の野球指導は「嫌気がさす」 怒声は自己満足…日本一へ導く全肯定方針

全日本学童野球大会連覇…新家スターズの低学年練習は「“放牧”って呼んでます(笑)」
学童野球日本一のベースとなるのは、打つことや投げること、考え方の個性を「否定しない」低学年への指導だ。2024年夏の“小学生の甲子園”「全日本学童野球大会マクドナルド・トーナメント」で史上3チーム目の連覇を果たした強豪・新家スターズ(大阪)。4年生以下のジュニアチームの練習では、まず楽しむこと、そして瞬時のプレーにつながる“意識”に重点を置いている。上の世代で野球が強く・上手くなるための、下の世代でのコーチングのポイントを取材した。
大阪市内から南へ約1時間。新家スターズの中学年・低学年は、和歌山県に近い泉南市の新家小学校を拠点に練習をしている。現在は3年生(新4年生)16人、2年生(新3年生)13人、1年生(新2年生)3人が在籍している。
ジュニアチームを指導する西口正人さんは、「日本一になって入部希望者が急激に増えました。近くの和歌山や、遠くは京都から見学に来る親子もいます」と“連覇効果”を口にする。所属チームの練習が物足りないからと移籍してくる子も多いという。
強豪だけに練習も早い段階から専門的なのか? と思いきや決してそうではない。「低学年に関しては、まずは楽しく遊ばせることが大事で、僕らは“放牧”って呼んでます(笑)」。
6年生・5年生のトップチームは、学校から車で5分ほどの専用グラウンドで平日3日も使いみっちりと練習をこなすが、4年生以下は週末土日の午前中のみ。特に低学年は学校の遊具を使ったり、鬼ごっこをしたり、柔らかいボールを使って遊んだりと、まずは野球をする上でベースとなる“体を動かす”ことに重点を置く。
「1、2年生から練習試合をやるチームもあるようですが、ストライクが入らない、打てないとなるとメンタルをやられて泣いてしまう子もいる。それで盛り上がっても、結局は大人が楽しんでいるだけでは? と思うんです。まずは楽しんで、褒めちぎって、『また来たい』と思ってもらえるように。そこから徐々に3、4年生で野球の試合ができるようにしていければいいと考えています」

子どもたちを集めて自由発言「最終的に無意識でできるように意識をさせる」
投げ方・打ち方指導も、大人の型にハメることはない。キャッチボールも、まずは好きなように投げさせ、肘が下がりすぎるなど故障の要因になる動作にだけ注意する。ティー打撃でも、細かい技術より、できる範囲でスイングさせることを重視し、動くボールに目を慣れさせることと、バットに“振り負けない力”をつけさせることに重きを置く。
学童指導歴12年、4年生以下の監督を務めて5年となる西口さんは、大人の型にハメるコーチングがうまくいかないことを痛感してきた。指導者になりたての頃は、つい怒鳴ってしまうこともあったと言うが、「怒鳴る指導は自己満足感を満たしているだけだと、子どもたちから学ぶことも沢山ありました」と振り返る。
「子どもたちは1人1人、体形も骨格も、運動神経の発達具合も性格も違う。大人の考えを押し付けたら嫌気がさしてしまいます。その子に合ったやり方を探してあげることが大事」。その上で、野球経験がかえって“邪魔”になることもあると指摘する。
「私も大学まで野球をやっていましたが、そういう大人ほど“自分目線”で難しいことを教えてしまうんです。『構えた時にグリップを頂点に三角形を作って……』なんて、1、2年生に理解できるわけがない(笑)。逆に野球経験がないとか、中学までしかやってこなかった人の方が、子どもたち目線になって噛み砕いて上手に教えてあげられますね」

技術は徐々に伝えるとして、早い段階で重視するのは「考える力」。キャッチボール1つにしてもどんな意識を持って取り組んだのか、時に選手を集めて発言させる。トンチンカンな答えでも決して否定はしない。「教えてもらったこと、上手くできたことを常に意識して、意識し続けて、最終的に無意識でできるようになるまでにしなさい」と繰り返し伝える。
「野球は頭を使うスポーツ。咄嗟のプレーができるようになるためにも、大人が一方的に全部教えるより、常に意識をさせ、自分で気づかせる方が身に付くのも早いです」。低学年からの“意識向上”が、チームの強みである堅固な守備や緻密な走塁につながっているのだろう。
好きこそものの上手なれ。楽しむ感情があれば、週末のみの練習でも3か月ほどでグッと伸びてくるし、4年生になれば近隣の大会で常に8強以上に入る強さも身に付く。「“野球小僧”の方がどんどん伸びていく。低学年のうちは、いかに好きにやらせてあげるが大切」と西口さん。日本一につながる土台は、“全肯定”の指導から築かれている。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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