150キロ投手の真価が見える“瞬間”とは 守護神指摘…データ偏重が招く「技術の危機」

元ロッテ守護神・小林雅英氏…野球の本質が失われつつ現代野球に警鐘
データは大事。でも、野球技術を向上させるために、もっと大切なことがある。ロッテの守護神として活躍し、MLBでもプレーした小林雅英氏は、現代野球において「間」(ま)と駆け引きの重要性が失われることに警鐘を鳴らす。それは、少年野球で子どもたちを指導する上でも忘れてはいけない、大人たちへのメッセージにも聞こえる。
小林氏は2011年に現役を引退後、オリックス、ロッテ、女子プロ野球リーグ、社会人野球のエイジェックで投手コーチを務めた。今年からは関甲新学生野球連盟に所属する白鴎大の投手コーチに就任するなど、プロ・アマ問わず、様々な選手を指導。その中で、データ至上主義の浸透によって、野球の本質が見失われていることへの危機感を抱いている。
野球の「間」、すなわち技術としての駆け引きが、どんどん縮められているような気がすると小林氏は指摘する。「審判の判定を“引き寄せる技術”も野球の一部」のはずが、ピッチクロックの導入やビデオ判定の普及により、かつては当たり前だった投手と打者の心理戦や、審判との微妙な駆け引きの余地が失われつつある。これらのデジタル化の波は、野球が持つアナログ的な魅力を脅かしているという。
技術指導やパフォーマンスの数値化が進む現代野球。可視化できることは、決して悪いことではない。しかし、判断を間違ってはいけないと小林氏は訴える。
かつて投手コーチ時代、「マウンドに立つ投手の回転数が少なくなっているので代え時では?」とデータ班に指摘されたことがあった。「いやいや、違うよ」と思ったという。選手には「ここが踏ん張りどころ」という瞬間があり、立ち振る舞いや表情、その背中など、数値では測れない要素こそが重要な判断材料になる。そこも見逃してはいけないと力説する。

「150キロ投手を作るより、試合で抑えられる投手を育てることが重要」
特に投手指導において、この「測れない力」の見極めこそが大切だ。「こうしよう」と意図を持って投球する選手と、「どうしよう」と迷って投げる選手とでは、結果は大きく異なる。「150キロを投げる投手を作ることよりも、試合で抑えられるピッチャーを育てることの方が重要」と小林氏。選手自身が状況を判断し、必要な時に力を振り絞れる能力を養うことこそが、長期的な成功につながる。
データを活用するにしても、長期的で体系的な指導が必要だと訴える。「できるのであれば、週に1回測定をして、その変化を追跡する。選手がどういう考えで、どういうドリルをやった上で数値が出ているのか、その過程を5年間ぐらい続けて記録する」という地道な取り組みを推奨する。
数値のみを追いかけるのではなく、その背景にある選手の思考や工夫を重視する姿勢。それこそが、野球の本質を守ることにつながっていく。
(佐々木亨 / Toru Sasaki)
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