「部活動を教えたい」意欲は“悪”なのか ワンオペ顧問改善も…にじむ情熱教師の葛藤

公立部活動で進む地域移行…負担軽減も、中学軟式野球顧問にあるジレンマとは
「部活動を指導したい」――。そんな教員の思いは、果たして“悪”なのだろうか。少子化対策、教員の働き方改革を目的に進む、公立中学部活動の地域移行。先生たちの労働負担軽減は歓迎されるべきことだが、意欲のある教員の思いを汲み取る方法も、ないものだろうか。21日に岡山で開幕する中学軟式の全国大会「文部科学大臣杯 第16回全日本少年春季軟式野球大会ENEOSトーナメント」に出場する、茨城代表の公立「明野五葉学園・協和・関城」の指導者たちも、複雑な思いを抱えながら“時代の波”に立ち向かっている。
「明野五葉学園・協和・関城」は、一見合同チームのようだが、正式には「筑西市拠点校チーム」として活動している。昨年度、市が2026年度からの週末部活動の“完全移行”を打ち出したことを機に、「中学初心者も安心して野球ができる環境整備を」と、古田部祐也監督(明野五葉学園教諭)ら市内の顧問たちが動いてスタートさせた。
24人の部員は、平日は各校で活動し、土日のいずれか半日のみ合同練習を行う。古田部監督は40歳、協和中顧問の小澤啓登先生は32歳、同中副顧問の田口圭介先生は50歳、関城中顧問の齋藤麗先生は26歳。また、野球指導は未経験だが、選手のサポート役に回る佐藤優紀先生もいる。世代はバラバラだが、旧知の仲である5人が協力し合い、短期間でのチームの融合と全国出場へと繋げた。
拠点校チームと合同チームとの違いは何か。例えば合同の場合、全校の顧問に試合などへの引率義務が発生するが、拠点校であれば、いずれか1人が付き添えばよい。「家庭の事情がある時に、誰かに託せる安心感はあります」と古田部監督。大人が増えることで役割分担ができ、競技経験のない教員を、経験のある教員がフォローできるのもメリットだ。サッカー出身の齋藤先生は「野球を教える面白さも学ぶことができました」と語る。
昭和・平成の時代は土日の長時間練習も普通で、家庭を顧みず顧問が付き添うこともあり、保護者もそれに何ら疑問を抱いてこなかった。「私のように自分がやってきた競技ならばまだよいですが、経験のない競技を1人で担当する先生もいた。異常だったと言えるかもしれません」(古田部監督)。“ワンオペ”のような労働環境にメスが入ったことは大きい。

中学生にとっては“心の成長過程”を確認することも大事
負担軽減は生徒にとってもそうだ。古田部監督は以前から、部活を引退した途端に体が大きくなる子が多いことに疑問を感じていたという。「おそらくオーバーワークだったんだと思います。茨城は部活動が盛んな地域で、簡単に練習を休むことに“恐怖感”があった。でも、体の成長や故障予防には、科学的に見ても睡眠時間の確保や適切な休養は大事です」。
現在の部活動は平日2時間、週末は3時間程度で、それぞれ休養日を設けるとの国のガイドラインがある。「限られた時間内で考えて指導すること。それぞれの家庭を大事にしつつ、仕事を“楽しむ”ことが大切だと気付かされました」と小澤先生も言う。
3校による拠点校チームは、地域移行により2026年度からは「筑西RISE」というクラブとして活動する。現在、部活動として行う週末練習も、移行後は先生たちが一切ノータッチになり、大会にもクラブとして出場する方向だ。各地で人材不足が問題となっている外部指導員は、古田部監督の中学時代の同級生が引き受ける。
部活動改革により、教員の負担は確実に減りつつある。公立の教員には他校への異動の時期が来ることもあり、安定的に指導してくれる人材がいるのも大きい。「うちは環境的に恵まれている方」と古田部監督は認めるが、ただ「各地でいろんな“ジレンマ”を抱えている先生が、たくさんいるのではないでしょうか」と続ける。
「中学生は“心の成長過程”を確認することも大事で、それが難しいんです。学校生活で何か起こったりすると、競技の方にも大きく影響が出るなど、グラウンド上だけでは判断できないこともある。今は『部活動を教えるのが悪』みたいな風潮もありますが、学校生活を含めて教員が指導できるところに、部活動の意義があるとも思うんです」
5人の中で最年長の田口先生は、「自分は部活動を教えたくて教員になったタイプ」といい、「平日しか教えられない、大会は外部に託すとなると、情熱を保つのが難しいと感じる教員もいると思います。学校での指導と外部での指導に食い違いが出て、子どもたちが迷ってしまうこともあるかもしれない」と懸念する。

熱感のある指導者のもとにこそ人が集まり、人が育つ
地域移行後も“外部指導員”として教えたい教員はいるし、自治体側もそれで人材確保ができれば理想なのが本音だろう。しかし、現状では兼職兼業届を出しての指導は残業時間に含まれてしまい、手当も微々たるものだ。極端にいえば“完全ボランティア”で教える手段もあるが、それでは新たな自己犠牲でしかない。学校側とクラブ側との情報共有の仕組みとともに、指導に見合う報酬など「教えたい・教えてもいい」教員を救済する手立ても必要ではないか。
地域移行にはクリアすべき課題がまだ山ほどあるが、1つ言えるのは、熱感のある指導者のもとにこそ人が集まり、そこから人が育つということだ。かつて古田部監督の教え子でもあった小澤先生は、こう振り返る。
「(古田部監督は)生徒よりも真っ先にグラウンドに来て『やるぞ!』と、熱量がすごかったですね。勉強は塾でも教えてくれますが、先生が部活動を通して伝えてくれたこと、先生の生き様・考え方って、やっぱり子どもたちの心にずっと残るものだと思うんです」
この「筑西市拠点校チーム」も、熱意ある先生たちが発起人となり、ゼロから行動を起こさなければ、1年で形にはならなかっただろう。心身ともに成長期の中学生たちを、どうすればより良い将来に導けるか。さまざまな葛藤とともに、現場での奮闘は続いている。
(高橋幸司 / Koji Takahashi)
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