中学野球“未経験”も…「スタートラインは皆一緒」　ブランク抱えた高校球児の再出発

JCOMで東京応援番組MC・豊嶋彬氏が迫る「令和の高校野球」第2弾は都狛江

　少年野球を経験した後、中学ではハンドボール部に所属。高校から再び野球に戻ってきた―。私、豊嶋彬は東京の高校野球を取材して10年くらいになりますが、都狛江の油谷吉晃外野手（2年）は少し異色の経歴を持つ選手だと感じています。一度離れた野球にどうして戻ってきたのか、そして、現在の思いを聞いてみました。

　取材をさせてほしいことを監督に伝え、伝達役のマネジャーに名前を呼ばれた時には驚いた様子でした。チームメイトからは「アブアブ」と親しまれている様子がうかがえました。油谷選手は中学進学時、少年野球では「そこまで野球に熱がなかった」そうです。自信がなく、「野球もあまりうまくない」という自己評価があり「中学で苦い経験をしたくなかった」という思いがありました。

「今思えば逃げたのかもしれない」という言葉が印象的でした。進学した中学校には珍しくハンドボール部があり、興味を持って始めたとのこと。ハンドボールは「頑張ってやりきったし、楽しかった。非常に魅力的でした」と笑顔を見せました。

　高校は地元に近い狛江高校を選んだそうですが、ハンドボール部がなかったんです。どうしようかと考えた時、野球部の存在を知ったとのこと。中学時代、ハンドボールを楽しむ一方で「家では野球中継を見たり、素振りをして遊ぶこともあった。心のどこかに忘れられないと思うこともあった」と野球への未練が心を動かしました。両親の「やればいいんじゃない」という一言も大きな後押しになりました。

　2021年夏のベスト8という実績もあり、強豪校だと知っていた都狛江の野球部。「厳しい道のりになるのは分かっていた」が、再び野球に挑戦することを決意したそうです。その理由の一つが狛江野球部の練習スタイルだったとか。「自分たちで考えたり、個人練習の時間もしっかりあって自主性がある。ここなら自分のやりたいこともできる、そこで自分を伸ばしたい」と思ったそうなんです。約1年間の野球部生活で、自分が上達していることを実感しているとのことでした。

　入学時、黒田一輝コーチの「スタートラインはみんな一緒」という言葉が心に残ったと言います。「ブランクがあっても、頑張れば野球部についていくのも高すぎる壁ではない」と感じ始めています。現在、中学野球の経験がないのは部内で油谷選手だけ。まだレギュラーにはなっていませんが「絶対に入ってやる」と口調は強かったです。「中学でやってなかったのにベンチ入りしたら面白いじゃないですか」と、楽しそうに目を輝かせる姿が印象的でした。

　最終学年に思い描いているのはレギュラー入り。「それが叶わなくても、絶対に最後までやり切る」というのが最も大切な目標です。現在は外野手として守備の上達を実感しており「練習してエラーをゼロにしたい」と意欲を示していました。

　中学で野球を離れ、高校で再挑戦を考えている人へのアドバイスは「やりたいことをやればいいんじゃないか」「もし思いがそこまででないなら、別に違った道を見つけて視野を広げてもいい」と、自身の経験から語ってくれました。

　油谷選手は小学生向けのティーボール教室で1年生の統括も任されたそうなんです。「小学生に野球を楽しんでもらうためにどうすればいいか」と悩み「成功するかどうか本当に不安だった」とのこと。しかし「リアル野球盤狛江バージョン」を企画し、ヒットや長打などを用意すると大成功だったそうです。子どもたちが盛り上がる姿を見て「企画した身としては、本当に楽しんでもらえたのが嬉しかった」と話していました。

　未経験の子どもも多く参加していたことから「楽しむことができないと、スポーツを続けられない」と実感したそうですね。「自分が楽しく野球をやれている環境を作ってくれている監督に感謝したい」という油谷選手の言葉には、高校から野球に再挑戦できた喜びが表れていました。

　高校から野球を始める選手や、一度離れてから再び挑戦する選手もいます。環境によって条件は異なり、レギュラー獲得や目標達成は誰にも予測できませんが、「野球を選んで良かった」と思える経験になってほしいですね。こうした挑戦を決心できる環境が高校野球界に広がることを願わずにはいられません。

【筆者プロフィール】
○豊嶋 彬（とよしまあきら）1983年7月16日生まれ。フリーアナウンサー、スポーツMC。2016年から高校野球の取材活動を始め、JCOMの「夏の高校野球東西東京大会ダイジェスト」のMCを務めている。高校野球への深い造詣と柔らかな語り口を踏まえた取材・実況が評価されている。スポーツMCとしての活動のほか、テレビ番組MCなど幅広く活動中。Xのアカウントは「@toyoshimaakira」、インスタグラムは「@toyoshimaakira」。

（豊嶋彬 / Akira Toyoshima）