爪が割れ胃腸炎も発症「動けない状態」 152キロ右腕、“苦境”乗り越え掴んだ日本一

智弁和歌山戦に登板した横浜・織田翔希【写真:加治屋友輝】
智弁和歌山戦に登板した横浜・織田翔希【写真:加治屋友輝】

横浜の2年生右腕・織田、大会前アクシデントも全5試合に先発

 第97回選抜高校野球大会は30日、大会最終日を迎えて決勝が行われ、横浜(神奈川)と智弁和歌山(和歌山)が対戦。1994年の選抜以来31年ぶり2度目となった対戦は、横浜が11-4で勝利を収め、公式戦20連勝で19年ぶり4度目の優勝を飾った。先発した織田翔希投手(2年)は6回途中まで1失点と好投。松坂大輔投手(元西武)を擁した1998年以来、史上初となる2度目の秋春連覇に貢献した。

 初回から自信のある直球で押した。先頭打者は準決勝で4安打の藤田一波外野手(3年)。140キロ台中盤の直球を3球続けて左飛。続く奥雄大外野手(3年)、山下晃平外野手(2年)も直球で打ち取った。今大会、全試合で初回に先制していた難敵を相手に11球で3者凡退。上々のスタートでチームを勢いづけた。

 1点先制した直後の2回、味方の失策が絡んでピンチを招き、セーフティスクイズで同点。だが、背番号10の2年生右腕は動じない。後続を断つと、3、4、5回とスコアボードにゼロを並べてリズムに乗った。2点リードで迎えた6回1死二塁、カウント2-2の場面で降板も、5回1/3を3安打1失点(自責点0)。19年ぶりの日本一を手繰り寄せ「立ち上がりから調子は良くて、しっかり投げることができました。甲子園で優勝できて良かったです」と笑みをこぼした。

 北九州出身の16歳は松坂氏に憧れて横浜に進学。昨秋は明治神宮大会優勝に貢献し、元監督の渡辺元智氏も「1年時で比べれば松坂より上」と評する逸材だ。甲子園デビューとなった今大会は、開幕前に右手中指の爪が割れるアクシデント。胃腸炎にも見舞われ、発熱して寝込んで、一時は「動けない状態でした」という。

1回戦で選抜2年生最速152キロ…準決勝、決勝で「役割果たせた」

 だが、大会に入ると少しずつ怪物の片りんをのぞかせる。市和歌山(和歌山)との1回戦で選抜2年生最速となる152キロを計測(今大会で山梨学院の2年生・菰田陽生内野手も152キロを計測)。松坂氏が1998年夏に記録した151キロの同校最速も、2年生の春に更新したのだ。全5試合に先発して“松坂2世”の評判にたがわぬインパクトを残した。

「1、2回戦、準々決勝は思い通りの投球ができなくて悔しい思いでマウンドを降りました。でも準決勝、決勝と、自分の投球ができて、チームに勢いを持ってこられたので、やっと役割を果たせました」。昨春の選抜を制した健大高崎(群馬)との準決勝の前日には、村田浩明監督から「怪物になるチャンスだ」とハッパをかけられ奮起。7回無失点の快投で、松坂氏のような“怪物”への道を歩み始め、決勝でも強打の智弁和歌山を封じ込めた。

「(途中交代の)悔しさはありましたけど、監督に『本当によくここまで投げた』と言ってもらえて、その嬉しさの方が上回りました。1つ、甲子園で優勝という目標は達成できました。でも、これで終わりじゃない。ランナー出してからの投球が課題。ここから(課題を)つぶして、いつもの自分の投球ができるようになって、また甲子園に戻ってこられればいい」

 マウンドでは頼もしい右腕も、試合が終わるとあどけない表情を見せる。まだまだ成長の余地を残す16歳。あと何度、甲子園を沸かせるのか……。本当に末恐ろしい。

(尾辻剛 / Go Otsuji)

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