大谷翔平、激減した内角攻めの理由 開幕直後から“変化”、専門家が見たMLBならではの駆け引き

Dバックス戦に出場したドジャース・大谷翔平【写真:荒川祐史】
Dバックス戦に出場したドジャース・大谷翔平【写真:荒川祐史】

チームの延長10回逆転サヨナラ勝ちと連敗ストップに貢献

【MLB】ドジャース 4ー3 Dバックス(日本時間21日・ロサンゼルス)

 ドジャースの大谷翔平投手は20日(日本時間21日)、本拠地で行われたダイヤモンドバックス戦に出場し、4打数1安打だった。今月5日(同6日)のマーリンズ戦以来14試合ぶりの盗塁も決め、チームの延長10回逆転サヨナラ勝ちと連敗ストップに貢献した。しかし、大谷の唯一無二の存在感を証明したのは、延長10回の申告敬遠だった。

 前日(19日)までに今季ワーストの4連敗を喫していたドジャースは、この日も1-1の同点のままもつれ込んだ延長10回表の守備で、相手に2点を奪われ絶体絶命。しかしその裏、無死二塁から、トミー・エドマン内野手が左翼線へ適時二塁打を放ち1点差に詰め寄った。なおも無死二塁で大谷に打席が回る。ここで相手ベンチは、申告敬遠で大谷を歩かせることを選択したのだった。

 現役時代にNPB通算2038安打を放ち、MLBにも造詣が深い野球評論家・新井宏昌氏は、申告敬遠の背景について「ダイヤモンドバックス側から見れば、1点リードで延長10回無死二塁のピンチですから、わざわざ逆転サヨナラの走者を出すことは、普通はあまりしません」と指摘する。

 その上で「そうせざるをえないほど、相手の監督は大谷に脅威を感じたということでしょう。本塁打1発で試合は決まってしまう場面。前日を含めて、今季もう3発も大谷の本塁打を目の当たりにしているのですから怖い。次打者の(ムーキー・)ベッツも、前日に今季7号、8号の2発を打っていましたが、メジャートップタイの17本塁打(成績は21日現在、以下同)を量産している大谷に比べれば、まだしも確率が低い。一、二塁にして、ベッツを内野ゴロ併殺に仕留める方に賭けたのでしょう」と分析した。

 実際には、ベッツは中飛に倒れるも、二塁走者がタッチアップで三塁を陥れ、1死一、三塁。打席にはリーグトップの今季打率.371を誇るフレディ・フリーマン内野手が立った。

 そのフリーマンの2球目、一塁走者の大谷がスタートを切り、今季11個目の盗塁に成功した。新井氏は「ここは大谷に二盗をさせるかどうか、ドジャースにとって判断の難しい場面でした。二、三塁にすることは、併殺打を防ぐには有効ですが、一塁が空くことによって、一番打率の高いフリーマンが歩かされる可能性が高くなりますから」と見た。「(デーブ・)ロバーツ監督は、フリーマンが歩かされたとしても、次のスミスもフリーマンに次ぐ打率.339、リーグトップの得点圏打率.500をマークしているから、十分期待できると計算したのでしょう」と推察する。

昨季は対左腕.288、対右腕.322で逆の傾向が表れていた

 フリーマンは3球目を前に申告敬遠で歩かされ、1死満塁。続くスミスはなんと肘をかすめる死球で、押し出しで同点となった。さらにマックス・マンシー内野手が中犠飛を打ち上げ、三塁走者の大谷はスライディング不要でサヨナラのホームを悠々駆け抜けた。両チームの駆け引きが、火花を散らしたイニングだった。

 一方、この日の大谷の打撃はというと、第1、第2打席は相手先発右腕ライン・ネルソン投手の150キロ台中盤のストレートに差し込まれ凡退。第3打席も2番手の右腕フアン・モリヨ投手の前に二ゴロに倒れた。しかし、8回1死走者なしでの第4打席は、4番手の左腕ジャレン・ビークス投手と対戦。初球の外角高めの153キロ速球を“逆方向”の左中間へ運び、二塁打にした。「左腕に対しては、実にスムーズにバットが出ました」と新井氏はうなずいた。

 というのも今季の大谷は、左投手に対する打率が.365(63打数23安打)を誇り、右投手に対する.283(127打数36安打)を上回っている。対左腕が.288(226打数65安打)、対右腕が.322(410打数132安打)だった昨季とは、逆の傾向が表れている。

 新井氏は「昨季に比べると、左投手にツーシーム系で内角を徹底的に攻められるケースが少なくなった気がしています。昨季はその球に手こずり、あるいはその球を意識するあまりボール球にまで手を出していました」と原因を探る。

 なぜ内角をえぐる攻めが減ったのかについては、「開幕直後に外角のスライダーを空振りするシーンがあったから、そちらを主に攻められたのでしょうか……。ただ、最近は外角球を左翼方向への長打にする打席が増えてきましたし、シーズンはまだ3分の2以上残っていますから、これから相手の攻め方がどう変わっていくか、注目していきたいと思います」と語るにとどめた。

 大谷と相手投手の間でも、シーズンも通して息の長い駆け引きが交わされている。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY