大谷翔平とジャッジが不参加も…MLBがHRダービーをテコ入れしない理由 人気回復の裏で静かな“綻び”

ジャッジは2017年に初出場…歴代2位の視聴者数を集めた
また一人、スター選手が辞退した。ドジャース・大谷翔平投手は28日(日本時間29日)、敵地でのロイヤルズ戦後に取材に応じ、オールスター前日に開催されるホームランダービーへの不参加を表明した。ヤンキースのアーロン・ジャッジ外野手もすでに出場を辞退しており、注目選手の欠場が相次いでいる。日本のファンからは「現行ルールを見直すべきでは」との声も少なくない。ではなぜ、MLBは頑なにフォーマット変更に踏み切らないのだろうか。
かつてのMLBホームランダービーは、日本プロ野球と似たフォーマットだった。スイングして本塁打にならなければ「アウト」とされ、10アウトで終了という形式。選手は自分の間でスイングできるため、肉体的負担が少なく、高い集中力を保ちやすかった。
一方で「間延びする」という問題もあった。テンポが遅く、打たない時間が長いため視聴者の興味をつなぎ止められず、視聴者数は減少傾向に。2008年は、ジョシュ・ハミルトンの復活劇とヤンキースタジアム開催が話題を呼び、過去最多となる約910万人が視聴したが、2010年以降は600万人前後にとどまり、視聴率も3~4%台に低迷していた。
そこでMLBは、2015年から「タイム制トーナメント方式」を導入した。制限時間内に多くの本塁打を放つ形式に変えたことでテンポが大幅に改善し、エンタメ性も向上。選手が次々とスイングするため、ホームラン数も増加した。この改革は成功を収め、初年度には2009年以来となる視聴者数700万人超えを達成。2017年にはジャッジの優勝もあって、歴代2位となる約860万人が視聴した。
当時ルーキーだったジャッジは、前半戦でセンセーショナルな活躍を見せていたこともあり、注目度は抜群。トーナメントを勝ち抜き、堂々の優勝を果たした。しかし、その代償は小さくなかった。本人は「肉体的な疲労が大きかった」と語っており、後半戦は78試合で19本塁打とペースが落ちた。最終的に52本で本塁打王に輝いたとはいえ、負担の大きさを露呈する形となった。

2024年は11年ぶりの600万人以下も…4大スポーツではNo.1
2021年には、二刀流として開花した大谷が初出場。フアン・ソト外野手との死闘の末、2度の延長戦で惜しくも敗れたが、日米で大きな話題を呼び、視聴者数は868万5000人を記録。一方で、ダービー中の大谷は息を切らし、苦しそうな表情を浮かべていた。高地・クアーズフィールドでの開催という要因もあるが、限られた時間内でフルスイングを繰り返す過酷さは、超人・大谷にとっても例外ではなかった。
注目すべきは、大谷もジャッジも「初参戦以降は不参加を貫いている」点だ。今回、大谷はロイヤルズ戦後の取材で「現行ルールだとなかなか厳しい。今のところ出場のチャンスはないかなと思っています」と率直に語った。3分以内に50回以上もフルスイングを繰り返す形式は、屈強なメジャーリーガーにとっても相当な負担なのだ。
大谷が参加した2021年をピークに、HRダービーの視聴者数は緩やかに減少傾向にある。昨年はドジャースのテオスカー・ヘルナンデス外野手が優勝を飾ったものの、視聴者数は545万人で2014年以来となる600万人を切った。米メディア「スポーツ・ビジネス・ジャーナル」は「ショウヘイ・オオタニ、ブライス・ハーパー、アーロン・ジャッジ、フアン・ソトといったスター選手が参加しなかったことも、注目度の低さに繋がった」と問題点を指摘している。
ただ一方で、MLBのオールスター自体は十分に成功している。本戦の視聴者数は下降気味ながら、北米4大スポーツのオールスター戦ではトップの水準を維持。ホームランダービーと並ぶ前日イベントの視聴率も群を抜いて高い。エンタメとしてのビジネスは成立しており、MLB側としては「改革の必要はない」との姿勢なのだろう。これは“拝金主義”と批判されがちだが、数字を見れば一概に否定はできない。
とはいえ、「オールスター」と銘打ちながら、主役たるスター選手が参加を見送る現状が果たして望ましいのかは疑問が残る。エンターテインメント性と選手の健康・安全の両立――MLBはそろそろ、“最適解”を本気で模索する時期に来ているのかもしれない。
(新井裕貴 / Yuki Arai)