夏連覇へ…東海大相模を変えた「土日4連敗」 選手考案の“ポーズ”に込められた思い

ターニングポイントとなった結成後初の4連敗
夏の神奈川大会連覇を狙う東海大相模。12日の2回戦(初戦)は12-0の5回コールドで横須賀工を、17日の3回戦では11-0で高浜をいずれも5回コールドで下して、4回戦にコマを進めた。掲げる目標は「打倒・横浜」、そして「日本一」だ。
横須賀工との一戦。ベンチにいる選手が、打者に向けて両手で“丸”を作るポーズが何度も見られた。主に低めの変化球を見極めたときや、セーフティバントの構えで揺さぶったときなど、スコアブックには表れない好判断のときだ。
「6月中旬ぐらいの練習試合から始めたことです。夏は応援がすごいので、選手同士の声がなかなか通らない。去年、自分がプレーしてみて感じたことでした」
キャプテンを務める柴田元気の言葉である。横浜スタジアムの決勝、さらに甲子園球場となれば、より声は届きにくくなる。
「仲間のああいうジェスチャーを見ると、自分は気持ち的に楽になるところもあって。昨年、一部の選手が自主的にやっていたんですけど、今年はチームで徹底してやる。気持ちのつながりというか、想いをつなげることが、プレーにも生きてくると思っています」
取り入れるようになったきっかけは、6月上旬の練習試合にある。新チーム結成後初の4連敗を喫したことが、ひとつのターニングポイントになった。

打席の選手が力を発揮しやすい声かけとは
6月7日、東海大相模グラウンドで行われた大阪桐蔭との練習試合。第1試合、第2試合ともに接戦で敗れると、翌日朝に新幹線で移動し、大阪遠征へ。ここで履正社と星稜にも敗れ、初の「土日4連敗」を喫した。
「チームの状況があまり良くなくて、何かを変えないといけない。キャッチャーの佐藤(惇人)と話し合って、選手ミーティングをやることになりました。それまでもミーティングはやっていたんですけど、自分か佐藤が中心になることが多くて、話す選手が決まっていた。でもこのときは、佐藤の提案で、『ほかのメンバーの意見を積極的に聞いてみよう』となったんです」
柴田が司会をしながら、周りのチームメートに「今のチームをどう見ている?」「現状を改善するには何が必要だと思う?」など、さまざまな問いかけをした。そこで、意見の一つとして出てきたのが、ベンチとグラウンドの選手をつなげる「丸ポーズ」だった。
さらに「打席にいるバッターにかける声」も議題にあがった。選手ミーティングの中で、「ベンチから『打てよ!』と言われると結構プレッシャーがかかる」という意見から、「どんな声がいいのか、ひとりずつリクエストを出し合おう」となったのだ。
柴田キャプテンは、仲間にこんなオーダーを出した。
「自分は体が前に突っ込むクセがあるので、『詰まってもいいぞ!』とか『ポテンでもいいぞ!』と言われたほうが、自分のスイングがしやすい。それをお願いしました」
認識した現状「自分たちはまだまだ弱い」
選手ミーティングを提案した佐藤は、当時のことを冷静に振り返る。
「練習が終わったあとに室内練習場でやったんですけど1時間ぐらいかかりました。みんなで思っていることを言い合って、自分たちが変わるきっかけになれたと思います。練習試合で4連敗したことで、『自分たちはまだまだ弱い』と本気で思えたのが大きかった。個々の能力はほかのチームに負けていないと思うんですけど、まだチームとしてひとつになり切れていない。それを全員が感じていました。あのミーティングから、チームが上向きになっていると思います」
この春から、原俊介監督は『ファンクショナル・ベースボール』という新たなスローガンを掲げる。攻撃でも守備でも、選手、ベンチ、指導者が機能的に絡み合い、1点を積み重ね、1点を防いでいく。就任当初から『つながる野球』と口にしていたが、それが『ファンクショナル・ベースボール』に発展した。
横須賀工戦の初回1死二塁。打の柱である中村龍之介が三塁前に絶妙なセーフティバントを決めて、チャンスを拡大するシーンがあった。原監督からのサインかと思ったが、「サードが警戒していなかったので」と語る中村自身の好判断だった。
原監督は「打つだけではない、さまざまな攻撃のバリエーションを準備してきています。昨年に比べても、攻撃の連動性やつながりは今年のほうが上」と手応えを得ている。
雨の影響で3回戦と4回戦が連戦となり、中1日で5回戦、準々決勝と続く。投手の起用法が大事になるのは、言うまでもない。3月に痛めた右ヒジの影響で調整が遅れていたエースの福田拓翔は、「ブルペンで投げる球が変わってきている」と指揮官は“兆し”を口にする。17日の3回戦で1イニング、復帰登板を果たした。野手陣では6月下旬、一塁駆け抜け時に足を痛めた中軸の金本貫汰も、3回戦では代打で出場した。
屈辱の4連敗から、変わり始めた東海大相模。グラウンドとベンチが一体となった野球で、夏の頂点を獲りにいく。
(大利実 / Minoru Ohtoshi)
○著者プロフィール
大利実(おおとし・みのる)1977年生まれ、神奈川県出身。大学卒業後、スポーツライターの事務所を経て、フリーライターに。中学・高校野球を中心にしたアマチュア野球の取材が主。著書に『高校野球継投論』(竹書房)、企画・構成に『コントロールの極意』(吉見一起著/竹書房)、『導く力-自走する集団作り-』(高松商・長尾健司著/竹書房)など。近著に『高校野球激戦区 神奈川から頂点狙う監督たち』(カンゼン)がある。