崩れ落ちる先発投手を掴んで立たせ…敗れて胸張る帝京の主将、届かなかった14年ぶり聖地

2021年秋から采配振るう金田監督
あと一歩、足りなかった物は何だったのか──。第107回全国高校野球選手権東東京大会は23日に準々決勝戦が行われ、14年ぶりの甲子園出場に迫っていた帝京は岩倉に2-6で敗れた。金田優哉監督は「1年間やってきた成果、良いところを全く出せなかった」と悔しさを滲ませた。
帝京の先発、背番号「10」の黒木大地投手(3年)は2回、2死二塁で岩倉の9番・河村柊希捕手(2年)に先制2ランを被弾。1-3とリードされた7回からは「1」を背負う村松秀心投手(3年)がマウンドに上がったが、河村にこの日2発目のアーチを浴びるなど、相手打線の勢いを抑えることができなかった。
一方、帝京打線は敵失や四死球に盗塁を絡めて再三チャンスを作ったものの活かし切れず、2得点にとどまった。金田監督は「采配ですね。監督の責任です」と総括した。
春14回、夏12回の甲子園出場を誇り、数多くのプロ野球選手を輩出してきた帝京だが、2011年の夏を最後に“聖地”から遠ざかっている。新型コロナウイルスの感染拡大に見舞われた2020年の夏には、東東京大会を制しているが、甲子園大会は行われなかった。金田監督は2021年秋、恩師で帝京を3度の全国制覇に導いた名将・前田三夫氏(現名誉監督)から監督の座を引き継いだが、指揮官としては1度も甲子園の土を踏んでいない。
昨夏の東東京大会は決勝まで進んだが、関東第一高に逆転負けを喫した。関東第一はそのまま全国大会の決勝まで駆け上がった(準優勝)だけに、実に惜しかった。昨秋の東京都大会も準決勝に駒を進め、選抜大会出場へ事実上“あと1勝”に迫ったが、二松学舎大付高にコールド負けした。金田監督は「もがいています。何とかこじ開けたかったです」と言葉を詰まらせる。

指揮官は大会開幕前、選手たちの帽子のつばに直筆で「魂」と書き込んだ
試合後に印象的な場面があった。ベンチ前に整列し、岩倉ナインの校歌斉唱を聞いていた最中、黒木が涙にむせびながら膝から崩れ落ちそうになった。咄嗟にユニホームの後ろ襟をつかみ、引っ張り上げるようにして支えたのは、隣にいた主将の梅景大地内野手(3年)だった。「最後まで胸を張ってやり切らないと、自分たちが今までやってきたことを否定してしまう気がしたので……」と梅景は胸の内を明かす。
その梅景は「4番・遊撃」で出場し、初回1死一、二塁の先制機で左飛に倒れた後は、4打席連続死球。第4打席ではファウルチップが右頬付近を直撃し、試合後報道陣に囲まれた際にはまだ患部が腫れ、ボールの縫い目の跡がくっきりと残っていた。
9回2死二塁での第5打席(最終打席)は、投球がヘルメットのフェースガード(左頬付近)を直撃。「痛みは感じませんでしたし、試合の流れを止めたくなかったので」すぐに立ち上がり、一塁へ走り出そうとしたが、さすがに大事を取って臨時代走を送られ、ゲームセットの瞬間をベンチ内で迎えた。
「やっぱり、甲子園は生半可な気持ちでは行けない所だと思い知らされました。自分自身に対しても、周りの選手に対しても、練習の段階からもっと甲子園のイメージが湧くような雰囲気を自分がつくるべきだったと思います」と悔やむ梅景。「最後は気持ちだと思うので、こういう大舞台で成果を出せるように、日々の練習をしっかり送ってほしいです」と後輩たちへ思いを託した。そして「金田監督を甲子園に連れて行けず、申し訳ないです」とうつむいた。
金田監督は大会開幕前、選手1人1人の帽子のつばに直筆で「魂」と書き込んでいた。梅景は「ミスをしても打たれても、この文字を見て気持ちを切り替えてきました」と明かす。
「結果が全てですが、よく頑張ったと言いたいです」とナインをねぎらった金田監督。「また、ゼロからですね」と声のトーンを上げた。名門帝京復活へ、悔しさをバネに再スタートを切る。
(井上怜音/ Reo Inoue)