横浜が抱え続けた“トラウマ” 2年連続で決勝で敗退…引き寄せた過去との決別

3点差を逆転…東海大相模に昨夏の雪辱
2年分の悪夢を振り払った――。第107回全国高校野球選手権の神奈川大会は27日、横浜スタジアムで決勝戦が行われ、今春選抜覇者の横浜が東海大相模を11-3で下し、3年ぶり21度目となる夏の甲子園出場を決めた。昨年の決勝で敗れたライバル校にリベンジ。松坂大輔投手(元西武)を擁した1998年以来となる同校2度目の春夏連覇を目指す。
ビハインドの展開でも焦りはなかった。3点先制を許した直後の4回、左翼で先発出場の奥村頼人投手(3年)が右翼席へ2戦連発となる2ランを放って反撃開始。江坂佳史外野手(2年)の右翼線適時二塁打で同点に追いつき、駒橋優樹捕手(3年)の中前適時打で勝ち越した。すぐさま逆転に成功すると、5回にも3点追加。試合の主導権を一気に奪い返した。
村田浩明監督は「凄い当たりの3ランを打たれて球場の雰囲気が一変したけど、焦ることはなかったです」と説明。「優勝しようと意識したらドタバタしたかもしれない。だから『9回まで長い旅だよ。しっかり歩いていこう』と話をしました。『ここから1点1点取っていこう』と言っていたんですけど、こういう舞台はお祭りみたいなもので、流れが来たらどんどんいく。一気に逆転して、強い勝ち方をしてくれました」と目を細めた。
一昨年、昨年と夏は神奈川大会2年連続準優勝。いずれも決勝は逆転で敗れた。特に2年前の慶応戦は「今も脳裏に残っている」という。2点リードの9回、微妙な塁審の判定でピンチが広がり、逆転3ランを浴びた。しかし、それよりも忘れられないのが直後の攻撃だという。「1点差なのに(判定に)『なんだよっ!』ってなっていて必死になれなかったんです」。
「土壇場にひっくり返すチームは強い」
トラウマになった悔しい敗戦。「そんなことは初めてだったので、学びになりました。2度とそういうことはしたくなかった」。東海大相模に終盤に逆転を許した昨年も「『先輩の分まで悔いなくやろう』と戦って、力んだり、うまくいかなかったり、選手を固まらせてしまって、普段とは違う(試合への)入り方をしてしまった感じがあった」と振り返る。
だから今、心がけるのは引きずらずに前を向くこと。「この代はこの代らしく戦えばいい。『過去のことは振り返るな』と言い聞かせて戦ったのが、この結果につながった」と胸を張る。今夏は平塚学園との準々決勝から3試合連続の逆転勝ち。劣勢でも慌てることはない。「『危ない試合』とか『ハラハラ、ドキドキの試合』とか言われますけど、土壇場にひっくり返すチームは強いんです」。着実にチームはステップアップしている。
いい意味で肩の力が抜けた姿勢は、采配にも表れている。背番号1の奥村頼は最後まで左翼のままで“温存”。9回のマウンドに送る考えは「全くなかった」という。優勝投手は8回から登板した背番号16の前田一葵投手(3年)。指揮官は「全員野球ですから。投手陣を引っ張ってきたし、頑張ってきた前田が最後を締めると相乗効果が生まれます」と強調した。
頂点に立った選抜後に繰り返した「通過点」。目指すは全国で唯一挑戦の権利がある春夏連覇となる。「簡単に狙えるものじゃない。1戦1戦しっかり戦いたい」という一方で、成長を続けるチームには「とてつもない力をつけてくれた。本物になったなと思う」と手応えを口にした。過去のトラウマを払拭して強さを増した今の横浜には、同校27年ぶりの快挙の可能性は十分にある。
(尾辻剛 / Go Otsuji)