市立船橋、顔面死球で高まった“結束” 3年ぶり甲子園へ…迷う指揮官を後押しした主砲の執念

顔面に死球を受けた市立船橋・花嶋大和【写真:岡部直樹】
顔面に死球を受けた市立船橋・花嶋大和【写真:岡部直樹】

延長10回タイブレークの末に八千代松陰を8-7で撃破

 第107回全国高校野球選手権千葉大会は27日、ZOZOマリンスタジアムで決勝戦が行われ、市立船橋が八千代松陰を8-7で撃破。主砲の執念と3年生の絆が、市立船橋を3年ぶり7度目となる夏の甲子園に導いた。

 6回のアクシデントがチームの結束力を高めた。2死二、三塁の一打逆転の場面で打席に入った3番・花嶋大和捕手(3年)が顔面に死球を受けた。臨時代走が送られ、花嶋は担架に乗せられてベンチ裏へ。主砲の突然のアクシデントにスタンドは騒然となった。

 試合出場は困難と思われたが、ベンチに下がってから約8分後、花嶋は捕手のポジションについた。左頬にガーゼを貼って帰ってきた花嶋に、マウンドの川崎耕司投手(3年)は「大丈夫かな、と思いましたが、あいつの方から『ここから先は全開で行くぞ!』と言ってきたので驚きました」と振り返った。

 この主砲の姿に、チームメートが奮起。3-3の同点で迎えた延長10回、八千代松陰に4点を奪われるもその裏の攻撃でドラマが起こった。打線がつながり無死満塁にすると、2番・小島直大外野手(3年)が押し出し四球。続く花嶋が右翼フェンス直撃の2点二塁打を放ち1点差に。その後、犠飛で同点に追いつくと、最後はエース・川崎が中前へサヨナラ打を放ち熱戦に決着をつけた。

 死球の花嶋を試合に出し続けるかどうか、海上雄大監督は迷ったという。それでも「花嶋中心でここまで3年間チームをつくってきたので、本人に出たいという意志があるのなら」と決断。「理学療法士の先生の判断も『本人が大丈夫であれば……』とのことでした。もちろん、各イニングに状態を確認しました。しっかりした目をしていたので、やってくれるかなと思っていたら、最後にきっちり打ってくれましたね」と主砲の一打に目を細めた。

スタンドでは“市船ソウル”と“青のプライド”が火花を散らしていた

 花嶋は中学3年で侍ジャパンU-15代表に選ばれ、2022年にメキシコで行われた「第5回WBSC U-15ワールドカップ」に出場したほどの実力者。高校通算24本塁打の“強打の捕手”としてチームに欠かせない存在になっている。

 閉会式終了後、興奮が冷めやらないグラウンドに花嶋の姿はなかった。海上監督は「本人はこの空間にいたがっていましたが、救急車で病院へ行きました。口の中が切れていたので、縫わなければいけないと思います」と説明した。

 市立船橋は花嶋を中心に3年生がよくまとまっている。「3年生は選手だけで47人、マネジャーを含めると52人の大所帯(全部員数は116人)ですが、1人も辞めずにここまで来ました。珍しいことです」と海上監督は3年生の頑張りを称えた。「お互いの気の遣い方が、大人になってきました。1人1人にいろいろな思いがある中で、チームのために動き始めてくれたと今大会を通じて感じていました」と成長を認めた。

 主将の田中健人内野手(3年)は「きついことがあったとしても、みんな野球が好きだから頑張れる。それがチームワークの良さにつながっていると思います」と語る。

 この日、両チームの応援席で演奏された、市立船橋の“市船ソウル”と八千代松陰の“青のプライド”は、いずれも、高校野球を代表するチャンステーマとして知られている。球史に残る熱闘の末、勝利を掴んだ市立船橋ナインの甲子園での躍動に注目したい。

(岡部直樹 / Naoki Okabe)

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