日大三の2年生4番が抱えた“重圧” 芽生えた自覚…意識を変えた監督の叱責「何をしているんだ」

日大三・田中諒【写真:加治屋友輝】
日大三・田中諒【写真:加治屋友輝】

主将の先制打に続いて、中堅フェンス直撃の適時三塁打を放った

 春の悔し涙を、夏にうれし涙へ変えた。第107回全国高校野球選手権西東京大会は29日、神宮球場で決勝が行われ、日大三が8-4で東海大菅生を破り、2年ぶり20回目の夏の甲子園出場を決めた。2年生で4番を打ち、今大会2本塁打を放っていた田中諒内野手は2打数1安打2打点2四球と活躍。「自分たちの中では勝てると思っていたのですが、まさか本当に甲子園に行けるとは……本当にうれしいです」と重責を果たし胸をなでおろした。

 3回、3番を打つ主将の本間律輝外野手(3年)が中前2点適時打を放ち先制。続く田中諒も、東海大菅生先発の左腕・上原慎之輔投手(3年)のスライダーをセンターへ弾き返した。打った瞬間は中飛と思われた打球が、風に乗ってぐんぐん伸びていく。最後は相手中堅手の頭上を越え、フェンスを直撃。タイムリースリーベースとなり、チームに貴重な追加点をもたらした。「少し擦った打球で、最初はダメだと思いました。風に乗ってくれましたが、自分の気持ちにも乗ったのかなと思います」と口元を綻ばせた。

 1点リードの5回1死二塁では、申告敬遠で歩かされた。さらに8回1死一、三塁では、幼なじみの東海大菅生2番手・藤平寛己投手(3年)から中犠飛を打ち上げ、ダメ押しの8点目を奪った。9回のゲームセットの瞬間、マウンドにナインが集まった時には、思わず涙がこぼれた。

 1年生の秋から名門・日大三の4番を任され、重圧と向き合う日々を送ってきた。今年5月3日には、春季東京都大会・準決勝で東海大菅生と対戦。4番の田中諒は3打数2安打と気を吐いたが、1点ビハインドの7回2死一、三塁の好機では二直に倒れ、チームは1点差のまま敗れた。「チャンスで打つことができなかった。本塁打性の打球もファウルになってしまって……」と悔しさのあまり涙を流した。

 試練は続いた。6月に入り、打撃の調子が低迷する中で出場したダブルヘッダーの練習試合。1試合目を4打数無安打で終えた田中諒は、2試合目の第1打席で凡フライを打ち上げると、打球を確認せずに下を向いたまま走り出し、全力疾走を怠った。三木有造監督から「何をしているんだ」と叱責されてしまった。

きっかけとなった監督の叱責、主将も「そんな風にしていたら…」とゲキ

 これで我に返った。「叱られて気づきました。本当に申し訳なかったです」と反省した田中諒は、練習や試合に取り組む姿勢が変わったという。「自分から積極的に、三木さんに意見を言うようになりました。三木さんの前でバッティング練習をしていて、スイングの質が変わっていったというか、スイング1本1本に重みが出てきました」と振り返る。

 周りの3年生たちも、時には厳しい言葉を投げかけながら、2年生の4番をフォローしてきた。主将の本間は「練習試合で結果が出なくて、(田中)諒が下を向いていて、チームの雰囲気が悪くなることがありました。『そんな風にしていたら、おまえだけでなく、チームが勝てないんだ』と言ってきました」と明かす。

「今大会開幕直前になって、あいつ自身変わってくれて、“三高の4番”の自覚が出てきたのかなと感じています。あいつはまだ2年生ですが、僕たちと同じように“最後の夏”だと思ってやってくれていると感じます」と田中諒の成長を認める。

 今大会で一番苦しい展開となった準決勝・八王子高戦で、田中諒は2-2の同点で迎えた9回に左翼席へサヨナラ2ランを放った。まさに“4番の仕事”だった。

 決勝では、春に悔しい思いをさせられた東海大菅生にリベンジ。「春は自分が打てなくて負けてしまいましたが、今回はみんなが1本1本つなぎ、自分たちの打線の強みを生かして勝つことができました。本当にうれしいです」と語る勝利の味は格別だ。田中諒はひと回り成長した姿で、夢の甲子園へ乗り込む。

(神吉孝昌 / Takamasa Kanki)

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