甲子園開幕の裏で…夢破れた“敗者”の現実 スタンドで見た息子の涙「頭が真っ白」

僻地の難題を越え、英明の4番打者を育てた母
27日に行われた第107回全国高校野球選手権香川大会の決勝は、高松市のレグザムスタジアムで午後2時試合開始だった。その日の朝、英明の「4番・一塁」で出場した丸與昊大(まるよ・そらと)内野手(3年)の母・恵子さんは、試合会場とは逆の方角へ車を走らせていた。
「ここから始まったんだ」。そう思いながら見つめた先は、まだ小さかった息子の昊大が野球を始めた東かがわ市・本町小跡地の運動場。「もう今は無い、白鳥本町少年野球クラブという軟式チームに入っていました。いつもあそこで練習していたんです。いよいよ高校3年の決勝なんだと思って。なんとなく車で(運動場まで)回ってきました」。
県最東端にある同市は10年ほど前から、さまざまなスポーツチームが部員や指導者不足に陥り、合併や消滅が起きている。その波に昊大も中学2年時に飲まれた。所属していた地域唯一の硬式野球チーム「東かがわリトルシニア」が活動を休止したのだ。それからは恵子さんら家族が週4日、片道1時間以上かけて高松市を拠点にする硬式野球チームへ送り迎え。帰り道で1日の疲労がピークに達しても、息子のためなら耐えられた。
昊大が高校生になると、電車通学に約1時間かかる息子に合わせて恵子さんも早起きになった。支えに対して「甲子園から去年帰ってきたときに、私と旦那に『ありがとう』って言ったんです」と声を弾ませる恵子さん。面と向かって言われたのは初めてだった。

先制適時打に喜び、ラストバッターになって泣いた息子
今夏の地方大会が始まってからは、これまでの精一杯のサポートに加え、「勝負の神様だから」と同市内にある白鳥神社を毎日参拝した。願いはいつも同じ。「試合に勝って、また甲子園に出るというあの子の夢が叶うこと」だった。
定刻に始まった尽誠学園との決勝は、初回1死一、三塁の場面で昊大の中前適時打で先制点から2点を挙げたが、すぐに逆転されて2-5。7回には相手のソロ本塁打でさらに点差が開いた。英明らしい粘り強さでチャンスをつくるも相手エース・廣瀬賢汰投手(3年)を前に打線が繋がらず、最後は昊大が中飛に倒れた。
「(1打席目は)報われてよかった。でも最後の打席。アウトになった瞬間は真っ白でした。空虚。小、中学校の最後の試合とは全く違う感覚でした」と振り返る恵子さん。昨夏に続く甲子園出場とはならず、小学3年から続いた野球のサポートはこの日、一区切りを迎えた。
8月5日には各都道府県を勝ち抜いた49校による甲子園が開幕する。戦う球児たちには家族のサポートがある。「息子さんとの一瞬、一瞬を大切にしてください。野球をしている子とその家族にとって甲子園は、小、中学校、大学の最後の試合とは違った、大きな区切り。ケガと病気にならないよう最後までサポート頑張ってください」。そうエールを送った。
(喜岡桜 / Sakura Kioka)