広陵問題に見るSNSの“重要性” 事件発覚に寄与も…加速する誹謗中傷、高校球界の変化

1回戦で旭川志峯に勝利後“別件”浮上で混迷の度を増した
第107回全国高校野球選手権大会で1回戦を勝ち抜いていた広陵(広島)が、14日に予定されていた津田学園(三重)との2回戦を前に、出場を辞退した。球界にとどまらず社会的な反響を呼ぶ騒動に発展しているが、今回の件を受けて、SNSに戸惑い翻弄される選手たち、学校側、高野連の姿が浮き彫りになった。
事の発端は、広陵の選手寮で今年1月、2年生部員(当時)4人が1年生部員(当時)1人に対し、それぞれ個別に胸や頬を叩くなどの暴力行為を行い、3月に日本高等学校野球連盟(高野連)から「厳重注意」を受けていた事実が、今大会開幕前になってSNS上で拡散されたことだった。
暴力行為を働いた部員は学校側の判断で一定期間公式戦に出場できず、一方で被害生徒は転校したというが、高野連はもともと出場停止処分などを伴わない「厳重注意」については、未成年保護などの観点から公表しないルールを設けていた。今回の一件も“隠蔽”していたわけではなかった。広陵の今大会出場を認める判断にも、変更はないとしていた。
ところが、広陵が7日に行われた1回戦で旭川志峯(北北海道)に3-1で勝利した後、高野連と大会本部は“別件”で被害を訴えている元部員から情報提供があったと発表。学校側は訴えのあった内容を「確認できなかった」とする一方、第三者委員会を設置して調査を行っていることを明らかにし、騒動はいよいよ混迷を深めていった。
結局、現時点で新しい事実は確認されていないが、雨天予報で予定されていた4試合が全て順延となった10日、広陵の堀正和校長は午後0時半頃に甲子園球場の大会本部を訪れて出場辞退を申し入れ、了承されたのだった。その後、報道陣向けに会見を開いた。
広陵が大会期間中としては異例の出場辞退に踏み切った理由の1つは、SNS上で大きな反響があり、野球部員以外を含めた生徒、教職員、地域住民が誹謗中傷、危険にさらされているからだという。

生徒が登下校で誹謗中傷され、追いかけられ、寮の爆破予告も
堀校長は「生徒が登下校で誹謗中傷を受けたり、追いかけられたり、寮の爆破予告があったり、そういったようなこともSNS上で騒がれています」と説明。“寮爆破予告”は、警察からそういった趣旨の書き込みがSNSに上がっていると指摘され、パトロール強化などの対策が取られたという。
大会出場中の選手たちはというと、大荒れのネット上の状況からはある程度“隔離”されていたようだ。中井哲之監督は初戦に勝った直後、「ウチの選手たちは(野球に集中するために)スマートフォンを広島に置いてきました」と明かしていた。これは今大会に限ったことではなく、そもそも普段の寮生活でも、広陵は基本的にスマートフォンを通信機器としてのみ使用し、使用できる時間も制限しているという。中井監督は「このルール自体、子どもたち自身が決めたことです」と説明していた。
広陵が内部的に出場辞退を決定したのは、前日(9日)の夜、広島で行われた学校の理事会だった。直ちに選手宿舎にいる野球部長に伝えられたという。選手たちの反応、胸の内はわからないが、これまでのネット上の紛糾ぶりを知らされず、“突然”の出場辞退に晴天の霹靂のようなショックを受けた選手がいた可能性もある。堀校長は「基本的に、選手たちはこのことについて何もわからない状態だったろうと思います」と語った。
堀校長の会見終了後、大会会長を務める朝日新聞社・角田克社長と大会副会長の日本高野連・寶馨(たから・かおる)会長も2人で会見に臨んだ。角田社長は「私としては、事実が何かをきちんと、かなりの確度で把握した上で、いろいろ判断をしなければならないけれど、大変難しい状況です」と話した。
全国の加盟校を統括し、場合によっては必要な処分を下さなければならない立場の難しさを吐露し、「SNSはスピード感を持って進化していくので、そのスピード感に対応できる体制づくりを真剣に考えなければいけない」と危機感をにじませた。
寶会長は「SNSは悪い面ばかりではない。今まで握り潰されていたようなことが明らかになり、従来なら泣き寝入りしなければいけなかったことが、そうではなくなっていくということでもあると思う」と指摘。その上で「誤情報やフェイク情報に気をつけなければならないのはもちろんだが、手紙やファックスでやり取りしていた時代と違い、夜中にも情報は世界中を飛び交っている。時代の変化に、迅速に対応していかなければならない」と力を込めた。
これまで闇に葬られるしかなかった被害を告発し、世に問うことができるようにしたのがSNSなら、本来関係のない人々を巻き込み危険にさらしかねないのもSNS。今に始まったことではないとはいえ、高校野球はSNSを巡って大きな岐路に立たされている。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)