夏の甲子園「2部制」に思わぬ弱点 熱中症疑いは半減も…安易に喜べない事情

昨年3日間→今年5日間に拡大 午後2時前後を避け「午前の部」と「夕方の部」
選手や観客を熱中症から守るため、夏の甲子園大会には昨年から「2部制」が試験的に導入されている。午後2時前後の最も暑い時間帯を避け、試合を「午前の部」と「夕方の部」に分けて開催するものだ。昨年は開幕からわずか3日間だったが、今年は5日間(当初は6日間の予定も、10日の全4試合が雨天の予報を受けて翌日へ順延されたため1日減少)に拡大して行われた。
その効果はいかに──。井本亘・日本高野連事務局長と志方浩文・朝日新聞高校野球総合センター長(大会本部委員長)が11日に会見し、今年の「2部制」を振り返った。
今年は「午前の部」を午前8時から、「夕方の部」を午後4時15分から始め、それぞれ2試合もしくは1試合を行う。原則的に「午前の部」は午後1時半、「夕方の部」は午後10時を過ぎて新しいイニングに入らず、決着がつかなければ継続試合として、別の日に同じメンバー、同じスコア、同じカウントで再開することになっていた。もっとも、今年も継続試合が行われることはなかった。
大会本部によると、今年2部制で行われた5日間(15試合)に発生した選手の熱中症疑いは計8件。昨年の第5日終了時(17試合)は計20件で、単純比較すれば、2部制拡大によって半数以下に減ったように見える。観客の救護室受診も計49件(そのうち熱中症疑いは計19件)で、昨年の計130件(同計71件)から大幅に減った。
それでも、手放しで喜べるかどうかは微妙だそうで、志方センター長は「実は今年、(2部制の)5日間ですごく暑かったのは第2日くらい。それ以降は雨の影響もあって、あまり暑くありませんでした。どちらかというと、2部制の効果というより、気温が低かったからという感じなのかなと思っております」と率直に所感を述べた。確かに、今年2部制で行われた第1~第5日の平均気温は30.3度にとどまり、同じ5日間に32.3度に達した昨年と比べると、かなり過ごしやすかったようだ。
“史上最遅”の終了時刻午後10時46分 学生スポーツとして批判も
ただし、今年の中では非常に暑く、グラウンド上で足をつる選手が続出した第2日に限っても、観客の救護室受診は11人、熱中症疑いも8人にとどまった。救護室の医師から「きょうは2部制の効果だった」との声が上がったという。飛躍的とはいえなくても、2部制の効果はそれなりに上がっていると見ていいのではないだろうか。来年以降の2部制の運用について、志方センター長は「今年の結果をよく分析した上で考えたい」と語るにとどめた。
一方で、志方センター長は「2部制は雨にすごく弱いことがわかりました」と吐露した。
というのも、2部制で行われる予定だった第6日(8月10日)の4試合は、前日(9日)のうちに早々と全試合中止→翌11日への順延が発表された。1日中雨が降り続く(時おり大雨)予報だったからだが、あにはからんや、実際のところ10日は時おりシャワーのような雨が通り過ぎたものの、全く降っていない時間帯も多く、「少なくとも2試合、ひょっとすると4試合全部やれたのではないか」との声が上がった。
一方、翌11日も予報は悪かったのだが、大会本部は中止の判断を当日に持ち込み、実際に全4試合を消化することができた。
「そこには2部制か、そうでないかが大きく関わっていました」と志方センター長は明かす。つまり「午前の部」と「夕方の部」で、事実上それぞれ5時間半以内に2試合を消化しなければならない2部制では、雨天予報となると継続試合を伴う可能性が極めて高くなり、大会全体の日程に大きな混乱をもたらすことになる。
一方、午後2時前後の長いインターバルがなく、1日をフルに使って4試合を消化すればいい“非2部制”なら、「どこかで雨が降って中断したとしても、やんだ時に再開できる」(志方センター長)というわけだ。
また、第4日の第4試合(高知中央-綾羽)は延長10回タイブレークの末、終了時刻が午後10時46分にずれ込み、記録が残っている範囲で大会史上最も遅い終了時刻となった。第3試合が天候不良で67分間中断した影響もあったが、2部制には終了時刻が遅くなりがちな要素が含まれているのは明らかで、学生スポーツの終了時刻としてふさわしくないと、批判の声も多く上がった。
2部制には一長一短がある。熱中症対策は避けて通れないが、かといって、そう簡単に画期的な解決策が転がっているはずもなく、試行錯誤が必要なのだろう。井本事務局長は「自分たちがやってみようと決めてトライしていることで、しんどいのは当たり前。今年もいろいろ課題が出てきたのかなと感じています」と表情を引き締めた。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)