甲子園に想定外の“空席” 監督が漏らした本音「いっそ中止になって」も…初勝利の舞台裏

北海に勝利しベンチから飛び出す東海大星翔ナイン【写真:加治屋友輝】
北海に勝利しベンチから飛び出す東海大星翔ナイン【写真:加治屋友輝】

同点の7回に一挙6得点「僕らはビッグイニングをつくるのが得意」

 全国高校野球選手権大会で東海大熊本星翔は11日の1回戦で北海(南北海道)と対戦したが、この日地元・熊本が大雨に見舞われ、大きな被害が出た。前日(10日)の午後7時45分にバス6台に分乗し熊本を出発した控えの野球部員(1、2年生)、吹奏楽部員、チアリーディング部員ら138人は、雨の影響で試合中に到着できず、甲子園のアルプス席にはぽっかり穴が空いたような形のままだった。それでもチームは10-7で勝ち、2年ぶり4回目の出場(選抜大会は出場なし)で甲子園初勝利をもぎ取った。

 試合前の段階で、応援団138人が間に合わないことは野仲義高監督もナインもわかっていた。試合開始の時点でもバスは、ようやく関門海峡を渡り、山口県周南市付近に差し掛かったところだった。

「なんとか今日の試合に勝って、来られない応援団に2回戦を見せてあげたい。なんとかそこだけはと思っていました」と野仲監督。「もしくは、いっそ(雨で)中止になってほしいと思っていました」と本音も漏らした。

 それでも3年生の控え野球部員、先乗りしていた選手の保護者、同じ東海大グループの大阪・東海大仰星の吹奏楽部、チアリーディング部らの声援を受け、チームは奮闘。3-3の同点で迎えた7回、四球や相手のエラーをきっかけにチャンスを広げ、一挙6得点のビッグイニングをつくって打ち勝った。

「僕らはビッグイニングをつくるのが得意です。誰かが打ち始めたら、みんなが打つ。選手間の仲の良さが影響していると思います」。試合後にこう語ったのは、4番を打つ大賀星輝(としき)外野手(3年)。“選手間の仲がいい”というのは、この日甲子園に到着できなかった野球部員を含んでいる。

「僕らは選手に注目してほしいのはもちろんですが、スタンドの応援にも注目してほしいと思っています。僕らも最後まで諦めませんが、スタンドも端から端まで、最後まで諦めずに全力で応援しています」と大賀。「今日だけでは東海大熊本星翔の全部を見せたことにならない。全部を見せるには今日勝って2回戦に進むしかないと、みんなで話し合いました」と明かした。

東海大星翔・野仲義高監督【写真:加治屋友輝】
東海大星翔・野仲義高監督【写真:加治屋友輝】

悲願の甲子園初勝利も「選手にはあまり意識させないようにしていた」

 大賀はこの日、5段階の警戒レベルのうち、危険度・緊急度が最も高い「大雨特別警報」が発令された熊本県玉名市在住。「家族も2日前からこちらに応援に来てくれていて、自宅がどうなっているのかわからない状況で不安でした。先ほど近所の方と連絡が取れ、自宅に関しては大きな被害は出ていないようです」とひとまず胸をなでおろしていた。

 一方、野仲監督にとってはやはり、甲子園初勝利も感慨深い。東海大二(現・東海大熊本星翔)3年の夏、主将として熊本県大会決勝に進出するも、甲子園には出場できず。2006年に監督となり、2018年に同校を35年ぶり2度目の甲子園に導いたが、初戦で敗れた。2023年の3度目の甲子園でも、初戦を突破できなかった。

「その中でも卒業生、OBは応援してくださっていて、非常にまとまった学校です。なんとか喜んでもらいたいという気持ちで、我々はやっています」と満面に笑みを浮かべた。ただ、「選手たちには(甲子園初勝利を)あまり意識させないようにしていました」とも。

 ナインにとっては、絶対に勝って仲間に甲子園でのプレーを見せることこそ、最大のモチベーションだった。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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