2年連続の“宿命”に号泣…「勝つところを見せたかった」 8強入りで天国の両親に届けた躍動

投手としては6回5失点降板、打っては意地の右前適時打
左投げ左打ちの“投打二刀流”の逸材が、姿を消した。第107回全国高校野球選手権大会で19日、関東第一(東東京)は日大三(西東京)との“東京対決”となった準々決勝に3-5で惜敗。「3番・投手」で出場した坂本慎太郎投手(3年)は6回5失点(自責点4)で降板後、中堅に回り、打っては5回に右前適時打を放ち一矢報いた(4打数1安打1打点)が、またもや頂点には届かなかった。
これまで投手として、中越(新潟)との初戦(2回戦)に先発し9回1失点完投、創成館(長崎)との3回戦もリリーフで4回無失点に封じていた坂本だが、強打の日大三は勝手が違った。4回に4安打と1四球で3点を先制されると、味方が1点差に追い上げて迎えた5回にも、守備陣の中継ミスもあって2点を献上した。
打撃では今大会3試合で打率.364(11打数4安打)、3打点をマーク。しかしこの日、2点ビハインドの9回2死走者なしで打席に入ると、中飛に倒れ最後の打者となった。くしくも、2年生で出場した昨夏の選手権で、決勝に進出しながら延長10回タイブレークの末、京都国際に1-2で敗れた時も、最後の打者は坂本だった。「ここまで引っ張ってくれたのは、(同級生で主将の)越後(駿祐内野手)です。あいつが一番苦しかったのに、自分は助けることができず、チームを苦しくしてしまった」と号泣した。
その坂本は小4の時に母・雪子さんを55歳で亡くし、昨年11月には75歳だった父・三男さんが脳出血で倒れ、翌月に帰らぬ人となった。「父が倒れた当初、寮生活の慎太郎には知らせず、手術が成功して落ち着いてから呼んだのですが、その後状態が急変しました」と兄・龍馬さんが振り返る。
母を亡くしてから、25歳上の姉・良子さん、16歳上の龍馬さんという年の離れたきょうだいが、親代わりとして坂本を支えてきた。そして坂本は野球では、小6で侍ジャパンU-12代表、中3で同U-15代表に選出され、努力を重ねながら輝かしい道を歩んできた。
昨春の選抜大会、昨夏の選手権ではアルプス席を訪れていた父
「父は、慎太郎が2年生で昨春の選抜大会と昨夏の選手権大会に出場した時、アルプス席で観戦しました。『まさか2度も甲子園に来られるとは思わなかったよ』とうれしそうでした」と龍馬さんは言う。
また、良子さんには1男2女、龍馬さんにも2男2女がいて、坂本にとっては甥っ子、姪っ子にあたる。良子さんは「特に私の長女は、慎太郎のわずか2歳下で、同じ小学校に通っていました。若くして両親を亡くしたのはかわいそうですが、姪と甥が7人もいて、少しは寂しさが紛れてきたかもしれませんね」と目を細める。
春夏合わせて3度の甲子園出場を果たした坂本自身は試合後、「両親は上(天国)でしっかり見ていてくれたと思います。勝つところを見せたかったですが、『お疲れさん』と言ってくれていると思います」と感慨深げに語った。
ちなみに、高知県出身だった父・三男さんは、兄には地元の英雄・坂本龍馬、坂本には坂本龍馬の盟友・中岡慎太郎にちなんだ名前を付けた。類まれな才能の持ち主である坂本は今後も、“幕末の志士”の心意気で野球人生を生き抜いていくに違いない。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)