2度の解散危機→部員40人に激増 注目した“低学年”…学童チームの瀬戸際救ったSNS戦略

茨城・筑西市の嘉田生野球スポーツ少年団
茨城・筑西市の嘉田生(かたお)野球スポーツ少年団は、現在約40人の部員を抱える地域でも有数の規模を誇り、8月2、3日に行われた県内のトップが集まる学童野球軟式大会「ノーブルホームカップ」の決勝トーナメントに出場したチームだ。しかし、この成功の裏には2度の廃部危機と、それを乗り越えるための創意工夫があった。Instagramの活用はひとつの転機になった。
チームの歴史は、現在の谷中俊介監督が小学3年生だった頃、谷中監督の父が立ち上げた。父親が10年間監督を務めた後、谷中監督は高校卒業後に指導者の道へ。コーチを2年間経験し、20歳で監督に就任した。
「2度ほど解散みたいな危機があったんです。人数がいなくて、非常に苦しい状況が続きました」と振り返る。全学年で7人、8人といった状況が続き、あと1人、2人足りないという瀬戸際まで追い込まれた。
今ではどのチームでも主流になってきたSNSでの情報発信。嘉田生野球スポーツ少年団では、投稿内容に特別、他のチームと差はないが、従来とは異なるアプローチを取った。上級生用と下級生用にアカウントを分けることだった。「下級生って今意外と光が当たらない」という課題を解決するためだ。
試合や大会中心の投稿では、入団を検討する低学年の保護者には「大変そう」という印象を与えてしまう。下級生は練習や休息、イベントが多いため、そうした日常を発信することで安心感を与えることができた。
効果は絶大だった。「入ってきていただく方は高い確率でInstagramを見てこのチームを選んできてくれた。保護者ってどんな仕事をするのかなとか、選手はどのぐらいいるのかなとか、活動時間ってどうなのかなとか、そういった詳細をまずアピールしていくことが大切だった」と谷中監督。移籍してくる選手もSNSがきっかけというケースが多い。

保護者負担軽減への取り組み
部員確保の成功要因として、保護者の負担軽減も大きな役割を果たした。当番制については複雑な思いもある。「保護者からは約9割の人が当番制にしていただきたいっていう声もある」が、あくまで保護者の自主制にしている。
「子どもと保護者が共感できる部分がいっぱいあると思っているんです。今日、ヒットを打って喜んで家に帰っても、ヒットを見た親とそうでない親っていうのはやっぱり喜び方が違うこともあります。その子どもが喜ぶことっていうのは親も一緒に喜んであげてほしいという思いもあったりもします」
一方、基本的に保護者には練習や試合に「来なくても大丈夫です」と強制せず、自然な形での参加を促している。実際には大半の保護者が試合を見に来ているという。
それでも少年野球界では保護者同士のトラブルは高い確率で起きる。大事なことはそれをチームスタッフも保護者も全員がしっかりと相互理解のもと、一緒に子どもたちの未来を考えていくスタンスを取れるかどうかにかかっている。
チーム運営と並行して、指導方針も大きく変化してきた。「父親に教わってきたようにやっぱり教えると厳しい教え方になったりとか、どうしても乱暴な言葉を使ったりするときもあって、非常にそういったところがまずかった」と谷中監督は過去を振り返る。
現在は「子どもを褒めながら伸ばしていくのが一番」という方針に転換。この指導方針の変化も、保護者からの信頼獲得に繋がっている。現在のチーム規模は約40人。5・6年生、3・4年生、1・2年生の3パートに分かれて活動している。廃部の危機から一転、地域でも有数の規模を誇るチームへと成長を遂げた。
「野球をこのきっかけにこうやって人との繋がりとか、地域の繋がりとか、そういったものが生まれてくれればいいなと思っています」と谷中監督。SNS活用と保護者負担軽減、そして子どもファーストの指導方針により、持続可能なチーム運営のモデルケースを築き上げている。
(First-Pitch編集部)
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