東大エースが“最後のアピール” プロの舞台へ…元ロッテ右腕の父親が感じた成長「僕より上」

早大戦に登板した東大・渡辺向輝【写真:古川剛伊】
早大戦に登板した東大・渡辺向輝【写真:古川剛伊】

「開幕戦ということで立ち上がりは硬くなっていた印象」

 東京六大学野球秋季リーグが13日に開幕し、プロ志望届を提出済みの東大・渡辺向輝(こうき)投手(4年)が早大1回戦に先発したが、8回途中10安打6失点で敗戦投手となった。スタンドでは現役時代にNPB通算87勝を挙げた父・俊介氏(日本製鉄かずさマジック監督)が観戦。2代にわたるプロのサブマリン誕生へ、最後のアピールが始まった。

 珍しく、力みが見えた。東大は初回、杉浦海大捕手(4年)が今秋ドラフト上位指名候補の早大・伊藤樹投手(4年)から2ランを放ち先制。しかし、頼みのエース・渡辺もその裏に犠飛で1点を返され、さらに2回の先頭打者に同点ソロを被弾し、あっさりと追いつかれてしまった。

 東大打線は5回にも9番打者・樋口航介内野手(2年)の左越え適時二塁打で勝ち越したが、渡辺はその裏、先頭打者に死球を与え、次打者の内野ゴロの間に二進を許した上、暴投で三塁まで進めてしまい、中犠飛を打ち上げられ同点とされる。

「味方打線が点を取ってくれた直後のイニングは、是が非でも無失点で抑えよ」と言われる投手の“鉄則”を、逆に行ってしまった格好だ。ボールを引っ掛けて暴投としてしまったのも、精密なコントロールが持ち味の渡辺としては珍しいシーンだった。

 スタンドの俊介氏は「開幕戦ということで、立ち上がりは両チームの先発投手が硬くなっていた印象です。(向輝は味方打線に)先制してもらうケースが珍しいということもあって、点を取ってもらった後に余計力んでいましたね」と評した。

 6、7回は無失点で乗り切り、試合は3連覇中の早大を相手に3-3の同点のまま8回に突入。しかし渡辺は7番・石郷岡大成内野手(4年)に適時三塁打、続く吉田瑞樹捕手(4年)にも左越え2ランを浴び、力尽きた。

試合を観戦した父・俊介氏【写真:宮脇広久】
試合を観戦した父・俊介氏【写真:宮脇広久】

「世の中に出て普通に仕事をすることにも興味があります」

「早稲田さんには過去によく打たれていて、少し苦手意識があり、立ち上がりに緊張してしまったところがありました。序盤はうまく投げられませんでしたが、中盤に立て直せたのは良かったと思います」。渡辺自身は開幕戦の結果を決して悲観していない。そして、「自分は東京大学の野球部に入れたからこそ、プロ志望届を出せるに至ったと思っているので、個人的な数字の目標は設定せず、チームが勝ち点を取るために、中継ぎだろうと何だろうと、できることはやろうと思っています」と最後のシーズンに臨む思いを吐露した。

 俊介氏も「プロへのアピールよりも、何とか勝ちたい、勝ち点を取りたいという気持ちが強いようで、責任を感じながら投げていると思います。そこに成長を感じます」とうなずいた。

 渡辺は「父を超えたい」という青年らしい志を抱き、進学校として知られる東京・海城高から東大に現役合格。農学部で学びながら、今月に入ってからチームメートの酒井捷外野手(4年)とともにプロ志望届を提出した。

 ただし、今秋のドラフト会議で支配下枠で指名されなかった場合、育成契約は望まず、企業などに就職する意向だ。「大学まで勉強とか、いろいろやってきて、世の中に出て普通に仕事をすることにも興味があります。その選択肢も残しておくことにしました」と説明する。

「投手としても、大学時代の僕より上。十分頑張っていると思います」と目を細める俊介氏は、国学院栃木高、国学院大、新日鉄君津を経て、プロ入り時は24歳になっていた。父より2年早くプロの世界に飛び込もうとしている渡辺の希望は、果たして成就するだろうか。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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