甲子園で勝利→東大でも金星…2年生左腕の“思考法” 聖地よりも忘れがたい「356」

今季初先発で5回1/3、2失点の好投「大量失点はしないように」
東京六大学野球秋季リーグは4日、東大が6-3で慶大1回戦に先勝。昨秋の法大戦2回戦以来2季、356日ぶりの白星を挙げた。東京・国学院久我山高時代に選抜大会ベスト4の実績を持つ松本慎之介投手(2年)が今季初先発し、5回1/3を4安打2失点に抑える好投で、リーグ戦初勝利をマークした。
松本慎のリーグ戦先発は今春の立大2回戦(3回2失点)以来2度目で、1回戦を任されるのは初めて。エースでプロ志望届を提出済みのサブマリン・渡辺向輝投手(4年)はあえてブルペンに回った。大久保裕監督が「今季、長いイニングを投げてくれているのは渡辺ですが、松本の方が抑えて結果を出していたので」と説明した通り、今季の松本慎は成長著しい。試合前の時点でリリーフで3試合に登板し、リーグ3位の防御率0.96をマークしていた。
「行けるところまで頑張って、大量失点だけはしないように気をつけました。(相手打者の)分析を頑張ってくれている明石(健捕手=3年)さんのサインを信頼し、間違わないように投げました」と松本慎。ストレートはほとんどが130キロ台にとどまっていたが、100キロ前後のカーブなどで緩急をつけ、慎重にコースを突いた。
初回に2死三塁から内野安打で先制点を許したが、その後は最少失点のまま粘る。すると、味方打線が4回に爆発し一挙5得点で大逆転。松本慎は6回1死一塁、投球数が「99」となったところでマウンドを降りた。このイニングは2番手の佐伯豪栄投手(3年)と3番手の江口直希投手(3年)が2人がかりで1失点でしのぎ、8回からは満を持してエース渡辺が登場。9回の先頭打者にソロを浴びたものの、リードを守り切ったのだった。
次なる目標は16季ぶりの勝ち点奪取、56季ぶりの最下位脱出
リーグ戦初白星が付いた松本慎は防御率1.84となり、ワンランクダウンでリーグ4位となったものの、東大の投手としては合格点以上だ。東京・国学院久我山高3年だった2022年の春には、選抜大会に背番号「10」を付けて出場し、リリーバーとしてベスト4入りに貢献。高知高との2回戦では5回から5イニングを2失点にまとめ、勝利投手となった。1浪を経て東大入学。高校時代に甲子園で白星を挙げた投手が東大に進学し、東京六大学リーグでも勝利投手となるのは極めてレアなケースである。
「甲子園どうこうより、普通に東大で1勝できたことが自分にとって大きいと思います」と語り、あっけらかんと笑顔を浮かべる松本慎。とはいえ、甲子園の大舞台を知る左腕の度胸は、やはり他の東大選手とはひと味違う。
ストレートのスピードもMAX142キロまで伸びた。本人は「球速よりも、投球に対する考え方やコントロールが向上し、うまいピッチングができるようになりました。やってはいけないプレーをしなくなったとも思います」と自身の成長を実感している。来年以降を含めて、実に楽しみな存在だ。
一方、最上級生の渡辺は「後輩たちが試合をつくってくれました」と感謝。「やっと、ついに勝てて、うれしい。自分たちの代で勝てたことは忘れられない思い出になると思いつつ、まだ1回戦ですから、ここから勝ち点を目指して頑張らないといけないと思います」と表情を引き締めた。
東大にとって白星自体は1年ぶりに過ぎないが、慶大からもう1勝して「勝ち点奪取」となれば2017年秋以来16季ぶり、最下位脱出まで行けば1997年秋以来56季ぶりの快挙。こちらも大変なレアケースとなる。
(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)