ドラ1有力→指名拒否で三井不動産「後悔ない」 慶大31勝左腕が断言する理由

始球式を務めた慶大OB・志村亮さん【写真:加治屋友輝】
始球式を務めた慶大OB・志村亮さん【写真:加治屋友輝】

東京六大学野球秋季リーグ「レジェンド始球式」に登板

 59歳となった“幻のドラフト1位”が神宮のマウンドに降臨。東京六大学野球秋季リーグの「レジェンド始球式」に1日、慶大OBで左腕投手として通算31勝をマークした志村亮さんが登板した。ドラフト上位候補が有力視されながら、三井不動産へ入社。数十年の時を経ても、自らの選択に後悔はないようだ。

 現役時代さながらの美しいフォームから放たれたボールは、ストライクゾーンからは少し外角低めにそれたものの、ノーバウンドで捕手のミットに収まった。レジェンドは「なんとか届きましたが、ストライクではなかったので(自己採点は)80点ですかね」と苦笑した。

 現役時代に慶大で通算31勝17敗、防御率1.82という圧倒的な成績を残した。特に4年生の1988年に達成した5試合連続完封と53イニング連続無失点は、今も東京六大学野球最多記録として輝きを放っている。

 当然、ドラフト会議へ向けて1位入札重複間違いなしの目玉候補と騒がれたが、事前にプロ入り拒否を宣言。当時はまだプロ志望届の制度がなかったため、強行指名説や“密約説”まで飛び交ったが、意志通り、三井不動産に入社した。「プロ野球は寿命の短い世界ですから、そこに集中して自分の道を捧げるんだという覚悟ができればよかったのでしょうが、僕にはその覚悟がなかったです」と穏やかな微笑みを浮かべながら振り返る。

 驚異的な大学時代の成績も「出来過ぎだと思っていて、やり尽くしたという気持ちだったので、(プロに行かないことを)全く後悔しない自信がありました。もし、やり残した感があったら、次の世界で……となったかもしれませんが、出来過ぎちゃったんで、けじめがつけやすかったです」とのことで、プロへ向けて背中を押す要素にはならなかった。

「今、大学4年当時に戻ったとしても、同じ選択をするか?」と聞かれると、「はい。(プロに)行かなかったことを後悔したことは1回もないです」と断言。「今の会社が正解かどうかは、まだ終わっていないので結論は出ないのですが……(プロに)行かなくて正解だったというよりは、行かなかったことに後悔していないという気持ちです」と説明した。

「一生野球が続くわけではないので、先も見据えながら社会に飛び込んで」

 時代は流れ、今年は慶大から4選手がプロ志望届を提出したが、残念ながら指名選手は皆無に終わった。東大からも2選手がプロ志望届を提出していた。

 志村さんは「最近は東大の選手も志望届を出しますし、もしかしたら指名されるかもしれないし、(プロ入りすれば)面白い選手だと思います。全体のレベルが上がっていると思います。目指せる人には目指してほしいと思います」とした上で、こう続けた。

「一生野球が続くわけではないので、その先も見据えながら、広い視野を持って社会に飛び込んでもらえればいいかなと思います」

「ここ4、5年は草野球もやっていなくて、子どもたちとキャッチボールをして調整してきました」と語る表情は、幸せに満ちているように見えた。当時は、なぜこれほどの実力者がプロに行こうとしないのかといぶかしがる向きもあったほどだが、人生の選択に一片の後悔もないようだ。

(宮脇広久 / Hirohisa Miyawaki)

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