ミスに怒鳴る指導者は“根拠不足” 根強い罵声撲滅へ…時代に「選ばれる」学童チーム

千葉・東金市の学童野球チーム「ASAI KIDS・UNITED」【写真:チーム提供】
千葉・東金市の学童野球チーム「ASAI KIDS・UNITED」【写真:チーム提供】

根拠に基づいたオーダーメード型指導…千葉の学童野球チーム「ASAI KIDS・UNITED」

 創部からわずか3年でNPBジュニアに2選手を送り出すなど、千葉県内で強豪チームへと急成長を遂げている千葉県東金市の学童野球チーム「ASAI KIDS・UNITED」(アサイキッズ・ユナイテッド、以下アサイキッズ)。年間計画に基づいたチーム強化と、選手個々の体の成長段階や性格、目標に合わせた「全選手オーダーメード」の指導で保護者からの信頼を集めている。チームの代表兼監督を務める野口孝之介さんが語る、野球離れが叫ばれる今の時代に選ばれる学童チームとは。

「大切なのは、“なんとなく”やるのではなく、やっていることの意味を理解したうえで練習に取り組むこと。それが、野球を上達する上で一番大事だと思っています」

 アサイキッズでは、試合で結果が出ない時こそ、まず“何が足りなかったのか”を選手に問いかける。例えば、バッティングで三振をした場合、ストライクゾーン、コンタクトゾーン、スイングの軌道など、1つ1つ選手に確認していき、選手自身が足りなかった部分を把握することを大切にしているという。

 そのためにも大切なのが、指導陣が教える“根拠”を持つこと。例えば、野口監督は打撃について、技術やメンタルなどの内的要因、相手投手の球速・コースなどの外的要因などに要素を細分化。守備動作についてもステップワークを9つの要素に分けるなどして、ミスした選手のどこに“足りない要素”があるのかを即座に把握できるようにしている。

 また、「球速、遠投、走力」の測定を行い、InBody(インボディ)による体成分測定を行うことで、筋力の状態やバランスを確認。それらの数値をふまえたアドバイスも選手に行う。「例えば、上腕の筋力が強い選手がバッティングでミスショットが続くと、その原因が筋力のバランスからくるものなのかを含めて考えます。するとアドバイスも変わってきます」。数値として目に見えることで選手の意欲も上がるという。

 1人1人の特徴を把握し、練習内容やプレーの“根拠”を大切にすることは、選手だけでなく指導者の成長も促すと野口監督は話す。「試合でミスをした選手にカッとなって怒鳴りつける指導者がいますが、根拠が頭の中で整理されていればミスの要因も把握でき、解消のために『次はどういう練習をすべきか』という思考になるので、熱くなることもなくなります」。球界に根強い怒声・罵声の指導をなくすヒントが、そこに隠されている。

ASAI KIDS・UNITEDの野口孝之介代表兼監督【写真:高橋幸司】
ASAI KIDS・UNITEDの野口孝之介代表兼監督【写真:高橋幸司】

負担減や施設だけでない…保護者が支持する“指導の一貫性”

 施設内に屋内運動場があるなど「浅井病院」という医療機関を母体としたサポート体制だけではない。こうした“個別学習塾”のような指導方法と、当番制を置かない親の負担軽減の運営で、アサイキッズは保護者からの支持も厚い。

 自身も高校まで野球経験があるという、ある父親は、「野口監督は常に野球の指導や育成について勉強されていますし、指導の根拠がしっかりとしているので、こちらから意見をすることもありません」と信頼を寄せる。

「保護者の負担がない、設備が充実していることが入部のきっかけであったとしても、入部してからは“指導の一貫性”を評価してくださる方が多いです」と野口監督は自信を持って答える。野球経験のある親は特に、子どもへの指導に口を出してしまいがちだが、アサイキッズでは年間方針や、時期ごとの強化目標、学年ごとの目指すべき指標などをしっかり示した上で練習を行っているため、不満を訴える保護者はいないという。

「手探り状態から始めましたが、ようやくニーズにコミットできるようになってきたかなと思っています。これからも選ばれるチームでありたいと思いますし、そのためには常に令和の先を行くチーム運営を目指していきたいですね」

 野口監督の根底にあるのは、「地域の野球人口を増やしたい」という思い。そして、「野球を始めた子たちが楽しく上達し、中学以降も長く続けてほしい」という思いだ。2022年の創部から3年、アサイキッズが注目されることによって、子どもたちが野球への興味を抱くきっかけになればと願っている。

(石井愛子 / Aiko Ishii)

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