自己最低の年に取材逆打診「なぜ今か」 怪我、巨人V逸…“逆風”で沈黙を選ばなかった理由

「逆算力――“才能”に挑んだ高梨雄平の生存戦略」第5回
成績が悪かった年に、なぜ取材を受けるのか。多くの選手は沈黙を選ぶ“逆風”のタイミングで、巨人・高梨雄平は自ら口を開いた。故障に苦しんだシーズン。それでも、言葉に残す意味とは――。Full-Countのインタビューシリーズ「逆算力――“才能”に挑んだ高梨雄平の生存戦略」。最終回となる第5回は、プロ10年目を迎えた高梨が語る「今」と「これから」。現在進行形の生存戦略に迫る。(取材・文=神原英彰)
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今回のインタビュー。実は、高梨からの申し出で実現した。
「僕からひとつ、いいですか?」
取材の冒頭、高梨が切り出した。
「(取材が)『なんで今なんだ』と思われるのは分かっています」
昨季は右座骨部の故障に悩まされ、プロ9年目で自己最少の21試合登板、0勝1敗5ホールド、防御率3.60。チームは優勝を逃し、1年目から続いた連続40試合登板もストップ。長い時間をリハビリに費やし、1軍の戦力になり切れなかった。
そんな状況で取材を受ければ、批判的な目に晒されてもおかしくない。それでも、このタイミングでなぜ言葉を残したいと思ったのか。
「人間ってどん底に落ちすぎると開き直れる。僕は、底に向かっている時がエンタメとして一番面白いと思うんです。記事でも映像でも、芸能人だって良い時の方が需要は高いし、取材される側もポジティブに受けやすいけど、僕は良くない時の方が面白いと思う」
人はうまくいかない時にどう悩み、何を考えるのか。その姿をありのままに残したい。「だから、今なんです」。敢えて“底に向かっている自分”を題材にする。それもまた、彼が繰り返してきた思考実験のようだった。
“セカンドキャリア”に違和感「セカンドもサードもない」
高梨の戦略はグラウンド外に及んでいる。例えば、SNSの活用だ。
楽天に在籍した2020年4月、コロナ禍でチーム活動休止期間、当時のプロ野球では珍しい個人のYouTubeチャンネルを開設した。しかも「たかなしきっちん」という料理系。球団や野球選手を過度に押し出すことなく、得意の料理をゆるく発信した。
Xは投稿した「大勢はガチ」のフレーズがハッシュタグで広まり、球団グッズ化。インスタグラムは愛猫2匹のアカウントも開設している。だが、それらはブランディングが目的ではない。「SNSは実験場」と定義している。
「何を発信したらどういう反応があるか。インプレッションの数値や返信で確かめられる。借り物の言葉ではなく、自分の言葉で発信する練習にもなるし、時代的にSNSくらい触った方が良いという現実もある。我を通すのも大事だけど、世界が変わったら自分も変わらないといけない。今、ガラケーを使っていて通用するのは、何かしらの才能が突出した人だけ。今ならAIも触れておかないといけないと思いますし」
高梨は「セカンドキャリア」という言葉を好まない。人生において現役生活などの区切りはなく、すべてが地続きと考えている。
「キャリアにセカンドもサードもない。全部一緒じゃないですか?」。引退した選手に向けられる「セカンドキャリアも頑張ってください」「セカンドキャリアに期待しています」という常套句がピンと来ない。「この違和感に僕は名前をつけたい」
キャリアは分断せず、同時進行で育てる。ドラフト9位という入団の経緯からして、クビになった時のことは1年目からずっと考えているし、選手と並行して、今も引退後のプランは具体的に描いている。
詳細は明かせないが「ひとつ言えるのは、サラリーマンになることはない」。その上で「自分がやりたいこと、求められていること、できること――この3つのバランスを仕事で取りたい」と彼らしい言葉で明かす。
「やりたいことでも求められていなかったら、それは趣味。やりたくて、求められて、できることは仕事としてイージー。やりたくて、求められて、今できないことを仕事にしたら、チャレンジになる。その変数を変えて、自分のキャリアを進めていきたい」

改めて聞いた「プロ野球選手になって良かったですか?」
もちろん、今は野球選手としての生活が最優先だ。昨季は低迷。「いやあ、苦しい1年でしたよ」。強がることなく吐露する。
「久々に全てがうまく回らず、その中で来季への光を探し続けた1年。答えが出ず、改めて『あ、この状態って苦しいんだよな』と思い出した。何をやっても上手くいかない、どうしたら良くなるか分からなくて……」
最終的に「時間が解決するしかない」という所に行き着きついた。リハビリは秋から続いている。期間が長くなると、メンタルが落ち込む選手も珍しくない。しかし、高梨の表情に暗さはない。「3か月経ったけど、全然大丈夫ですね。ちっちゃい成長を見つけるのが得意なので」。3月頃の実戦復帰を目指している。
「やるべきことをやって時間が経てば、多少何かが成長すると知っている。大事なことは、やること。2026年は野球がまともにできないということがないように、立場をちゃんと取りに行く。一刺し二刺ししたいです」
「やるべきこと」はシンプル。「使える」と評価されるボールを投げ、あとはチャンスを待ち、時が来たら掴むだけ。「今まで何回やってきたか分からない作業を、また僕ができるか。それが試されていると思うので」
1時間に及んだインタビュー。最後に聞いた。
社会人野球で戦力外寸前……大企業の肩書きと“年収1000万”の安定を捨て、飛び込んだプロの世界。決して高くなかった期待値をあざ笑うように、しぶとく、賢く、生き抜いてきた。
――プロ野球選手になって良かったですか?
「良かったですよ。即答できます」
穏やかな笑みを浮かべ、はっきりと言い切った。
「就業難易度が高いプロ野球選手という職業をやれたので。プロ野球選手だから、実態の高梨雄平という人間より価値を高く錯覚する人がいっぱいいた。引退したら、その後の人生の方が長い。その前に今、気付けて良かったです。『本質的な価値とは』を考えるきっかけにもなったので」
彼にとって「センス」とは、才能ではない。環境がどうであれ、思考を止めないこと。結果が出なくても、実験を続けること。
ドラフト9位から10年。高梨雄平は今も、答えの出ない未来を逆算し続けている。
(神原英彰 / Hideaki Kanbara)