大事な試合前に鬼ごっこ? 円陣にも笑い要素…東京No.1女子が“逆境に強い”ワケ

東京の女子選抜チーム「オール江東女子」ナイン【写真:チーム提供】
東京の女子選抜チーム「オール江東女子」ナイン【写真:チーム提供】

監督も驚く逆転勝利の多さの秘訣は…東京・江東区の選抜チーム「オール江東女子」

 逆境に強い女子チームには、ある特徴があるという。東京・江東区を中心に活動する学童女子選抜チーム「オール江東女子」は、主要試合で逆転勝利を収めるケースが多く、昨年の「NPBガールズトーナメント」初出場を決めた都大会準決勝も逆転で全国切符を勝ち取っている。2014年から指揮を執る長江彰孝監督は、「チーム一番の緊張しいは、僕」と苦笑し、大事な試合前はチームから一人で離れて行動することが多いそうだ。しかし、選手たちは全く違う。

「ある試合では初回に4点取られてヒヤヒヤしていたら、その裏に3点をホームランで奪って最後は1点差で勝利したり、8点差があっても平気でひっくり返したり……。とにかく僕がいつも驚かされています」

 あくまで経験則での話と前置きしたうえで、長江監督は逆境に強いチームの特徴を、こう話す。

「開会式など多くのチームが集まるとき、写真撮影の場面でモジモジ、ゴニョゴニョして、なかなか足並みが揃わない年よりも、自分たちから積極的に動けたり、グラウンドを走り回ったりするような“にぎやかな学年”は、強い。団結までのスピードが圧倒的に速いんです」

 そして誰もが認めるような上手な選手がいても、成績が振るわない年も多いそうで、個の能力よりも、「みんなでなんとかしよう」という空気があるかどうかが大きいという。

「大人は、『次の回どうなるか』と先を読んで不安になってしまいがち。でも子どもたちは『やってみなきゃわからない』『なんとかなる』と本気で信じている。これは男子選手とも違うポジティブな視点ですから、それを止めさせるのではなく、いかに伸ばしてスイッチを押してあげるのかが僕の役目です」

女子チームならではの声のかけ方があると長江監督【写真:吉田三鈴】
女子チームならではの声のかけ方があると長江監督【写真:吉田三鈴】

ここぞの場面での「任せたぞ」で“信頼を渡す”

 一般的に女子選手は団結力が高く、良い雰囲気になると爆発的な勢いが出る一方で、一度悪い流れにハマると立て直しに時間がかかる側面もある。そのため長江監督は、選手の気持ちが落ちそうになる前に、どう素早く切り替えられるかに重点を置く。

 試合中は、緊張する場面こそ、ふざけた冗談を飛ばして選手を笑わせることを欠かさない。そして、ここぞの場面に選手を送り出すときは、必ず「任せたぞ」という声がけをする。これは、「打て」「決めろ」といった言葉によって、結果を背負わせすぎる状況を避け、プレッシャーではなく、“信頼を渡す”ことを意識しているからだ。

 また、チーム内ルーティンも他チームとは大きく異なるから面白い。試合前のウオーミングアップはなんと、「鬼ごっこ」。鬼役は指導者になることも多いという。

「緊張して硬くなるより、笑って試合に入ったほうがいい」という思いから始めたそうだが、選手たちはとても気に入っている。決まった場所を走るよりも、動きも柔軟になり、自然に笑顔がこぼれるなど、心身をほぐす効果を生んでいるからだ。

 ほかにも、イニングごとに監督を取り囲んで指示を送る形式での円陣は組まず、各自が次の準備を自分で考える形に変更。「言われて動く」から「考えて動く」ことで、試合中の瞬時の判断力を育むことにつながっている。

 すると「いつの間にか選手間で役割が決まった」という円陣リーダーが、チームを鼓舞する役目を担うようになったそうだ。

「だからうちの円陣は、普通と違うかもしれません。3つほど笑いの要素を絡めていますしね」

にぎやかさと強い団結力がチームの持ち味だ【写真:チーム提供】
にぎやかさと強い団結力がチームの持ち味だ【写真:チーム提供】

信頼関係を育て、ポジティブな空気を作り、「逆転」を奇跡にしない

 円陣リーダーは、単なる号令係ではなく、チームの心理状態を整えるキーパーソンとして機能。監督による円陣の出番は、余程流れを変える必要がある場面だけ、と士気を高めるときと、真剣に取り組むときのタイミングを見極めながら、気持ちのメリハリをつけさせていることがわかる。

「他のチームを見習って、もう少し挨拶や道具の整理などをしっかりしたほうがいいのかな、と悩むこともありますが、これが僕らのチームですから」と長江監督は快活に笑う。

“楽しい”の延長線上に試合がある状態をつくり、信頼関係を育て、ポジティブな空気を作ることで、「逆転」を奇跡にしないオール江東女子。練習中も常に選手主導で、「次はベーラン競争をやりたい」「あっち(別のグループ)の練習に参加したい」という選手からの積極的な声が飛び交う。そして集合をかけなくても、監督の周りにいつも選手が集まってくるのが印象的だった。

「江東区学童少年軟式野球連盟さんも柔軟に対応くださり、オールの活動に参加しやすいよう大会の日程調整や、チームに所属していない女子選手も参加できるようになっている。選手が楽しく活動できるようにすること、楽しく試合ができること。それが僕ら指導者の願いです」

 にぎやかさと強い団結力で逆境を跳ね返す、オール江東女子旋風はこれからも続いていきそうだ。

(吉田三鈴 / Misuzu Yoshida)

少年野球指導の「今」を知りたい 指導者や保護者に役立つ情報は「First-Pitch」へ

 球速を上げたい、打球を遠くに飛ばしたい……。「Full-Count」のきょうだいサイト「First-Pitch」では、野球少年・少女や指導者・保護者の皆さんが知りたい指導方法や、育成現場の“今”を伝えています。野球の楽しさを覚える入り口として、疑問解決への糸口として、役立つ情報を日々発信します。

■「First-Pitch」のURLはこちら
https://first-pitch.jp/

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY