引退から30年も「戻って来ないか」 切れ目ないオファー…65歳で選んだ“初体験”

西武など3球団で活躍し、現在は福岡トヨタで投手コーチを務める杉本正氏【写真:山口真司】
西武など3球団で活躍し、現在は福岡トヨタで投手コーチを務める杉本正氏【写真:山口真司】

ダイエー2軍投手コーチに復帰「森脇2軍監督の声かけで…」

 元西武、中日、ダイエー左腕の杉本正氏(野球評論家)は2025年4月から福岡トヨタ硬式野球クラブFTサンダースの投手コーチを務めている。「勝てる選手を作り上げたらいいかなと」。東尾修氏が名誉監督で、2026年からは森脇浩司氏がGM兼監督となった。2025年の全日本クラブ野球選手権大会では初出場で4強入りを果たしており、さらなる飛躍を目指している。

 杉本氏は1993年にダイエーで現役を引退し、1995年からダイエー2軍投手コーチとして指導者人生をスタートさせた。1998年からは東尾監督率いる西武で1軍投手コーチを務め、リーグ優勝も経験。その後、西武編成担当を経て2004年にはダイエー2軍投手コーチに復帰した。「森脇が2軍監督で『杉本さん、戻ってきませんか』と声かけしてくれて、(西武球団取締役の)浦田(直治)さんと話をして戻ることになったんです」。

 2006年からはソフトバンク1軍投手コーチに就任し、王貞治監督を支えた。「ちょうど第1回のWBC(ワールド・ベースボール・クラシック)の時でキャンプの途中から王さんが(日本代表監督を務めるために)いなくなって、それからはメールでやり取りしたんです。アメリカに行かれてからもそう。開幕投手をどうする、とかもメールでね。オープン戦も毎試合、報告書を出していました」。

 7月には王監督が胃がん治療でチームを離れたが「監督代行になった森脇と一緒にシーズンをやって、プレーオフまで行った。最後は(第2ステージで日本ハムに)勝てなかったけど、頑張れたかな、っていうのはありました」。最下位に沈んだ2008年に退任したが、コーチ時代に経験したことは、この先にもつながった。いろんな縁も杉本氏の指導者人生をつなげていった。

 2009年には横浜の1軍投手コーチに。「(杉本氏がかつて在籍した社会人野球)大昭和(製紙)の先輩の村上(忠則)さんがGMみたいな仕事(チーム運営部門統括)をされていて、投手コーチを探しているってことで声をかけてもらったんです」。2010年は知人の紹介で韓国・起亜の投手コーチ、2011年は元西武スカウトの楽天・楠城徹編成部長と、中日時代の監督で恩師である楽天・星野仙一監督の縁もあって、楽天で編成スカウトも経験した。

 2012年には西武投手コーチに復帰し、2014年まで務めた。「当時、西武の編成部長だった鈴木葉留彦さんに『もう1回(西武)戻ってこないか』って誘っていただいて、また行かせてもらいました」。2017年と2018年は楽天で1、2軍巡回コーチなどの役割で選手を育成。「(楽天野球団取締役副会長だった)星野さんから電話をいただいて『お前、ちょっと手伝いに来い』と言われたんです。(中日時代にお世話になった)星野さんの側近の早川(実)さんや福田(功)さんが僕を推薦してくれたみたいです」。

 2018年1月4日に恩人の星野氏が亡くなり、杉本氏もその年限りで楽天を退団。そこからはプロのユニホームは着ていないが、1993年の現役引退以降、ほとんど切れ目なくプロ野球に携われたのは人望なしではあり得ない。「(社会人時代から知る)大石(友好)さんとは西武でも中日でも一緒だったし、ダイエーのコーチの時も、西武のコーチの時も、仙台(楽天)でも、ずーっと何かつながっていましたけどね」。いろんな縁が野球人生に厚みを加えていったわけだ。

現在は名誉監督が東尾氏で、GM兼監督が森脇氏の福岡トヨタ投手コーチとして選手育成に励む

 杉本氏には“古巣”がたくさんあるが「やっぱり最初に入った西武が、そういう意味では一番かな」と言う。「ただ、どこの球団もそうですけど、だんだん離れていって、知っている人が少なくなると関心が薄れてきますよね。もちろん、西武にはAクラスに入ってほしいし、中日には頑張ってほしいという気持ちはありますよ。ソフトバンクもそう。まぁ、ソフトバンクは戦力的にもあるのでねぇ……」。

 御殿場西時代も、大昭和製紙時代も当初は別世界にしかとらえていなかったプロ野球の世界で投手としても、コーチとしても長きにわたって第一線で活躍してきた。もともとは中学卒業後に調理師の道に進もうとしていたのが、自身の“野球力”によって、周囲に引き留められて野球人生を継続させ、さらに切り開いてきた。

 そして現在もまた東尾氏や森脇氏との縁もあって、2025年4月から福岡トヨタ硬式野球クラブFTサンダースの投手コーチとして奮闘している。「週にやれる練習は月曜日と水曜日の2回。あとは業務が優先されて自主トレだけなんですけど、それを言い訳にするのではなく、その中でどうやったら勝てるかを考えていこう、戦力アップしていこうということでやっています」。2025年9月の全日本クラブ野球選手権大会に初出場で4強入りを果たすなど、結果も出しており、今後が楽しみなチームだ。

 アマチュア球界で本格的に指導するのは初めて。「去年(2025年)の大会は松山であったんですけど、今年(2026年)は50回記念大会ということで準決、決勝は東京ドームでやるんです。合言葉は“東京ドームで試合を”ってことでやりましょうとなっています」と話す。「都市対抗の予選にも出られるので、そこも目標のひとつ。これまでプロ野球で培われてきたものを今の選手たちに伝えて、力を発揮してくれるようになってくれればいいなと思いますね」と気合も十分だ。

「カーブもスライダーもこういうタイミングで投げたらいいんじゃないか、とかね」と自身の現役時代の武器なども伝授しており、いずれは福岡トヨタからNPB入りする選手も出てくるかもしれない。「そうなったら最高ですけどね」。野球人としての円熟味も増した杉本氏は新たなやりがいも持って、野球と向き合い続けている。

(山口真司 / Shinji Yamaguchi)

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