「最後がアイツで良かった」―中日同期入団の“10勝バッテリー”がトライアウトで対戦
2013年に中日に入団した杉山と若松「杉さんは本当に投げやすかった」
あうんの呼吸で勝ち星を積み重ねてきたかつての同期入団バッテリーが、選手としての分岐点を迎えた場で相まみえた。12日に行われた「プロ野球12球団合同トライアウト」。2018年に中日を戦力外となり、今季はルートインBCリーグの栃木ゴールデンブレーブスに所属する若松駿太投手と、今季中日から戦力外通告を受けた杉山翔大捕手。勝負は1球で決着したが、ともにプロで輝いた同志との時間は感慨深かった。
ねじ伏せてこそ、礼儀だと思った。「意地でも抑えないと」。投手は打者3人と対戦するトライアウト。若松が最後の3人目に迎えたのが、同じ13年に中日に入団した杉山だった。セットポジションから投じた初球を、「追い込まれる前に」と決めていた杉山が振る。ふらふらとファウルゾーンに上がった打球を追う一塁手を見ながら、2人は同じことを思った。「捕るな」。まだ戦いを楽しみたかった。だが、想いは届かず一邪飛で決着がついた。
ただの元チームメートでは片付けられない。杉山は早大からドラフト4位、若松は福岡・祐誠高から7位で入団。2人のプロ人生を変えたのが3年目の15年だった。若松がプロ初勝利から一気に10勝を挙げてブレーク。そのほとんどの試合で杉山がマスクを被った。イケイケで我の強い投手に、深い懐で受け止める兄貴分的な捕手。「杉さんは本当に投げやすかった」と言えば、「若松をいかに気持ち良く投げさせるかが僕の仕事でした」と応えた。
だが奇しくも、下降線が急なのも一緒だった。若松が一足早く18年限りで竜のユニフォームに別れを告げると、今季には杉山も戦力外に。再会は、思ってもみない場所だった。トライアウトで若松は打者3人に対して1四球の無安打。杉山はバットでこそ快音を残せなかったが、守備では11人を好リード。「初めて組むのに自分の良さをわかってくれていて、すごくいい捕手でした」と話す投手もいた。
悔いを残すことなく力を出し尽くし、あとはNPBでの再会が果たせる日が来ることを待つばかり。もし叶わなければ、若松は再び栃木でプレーしながら機会をうかがうつもり。杉山は社会人なども含めて可能性を探る。ともに今年結婚し、守るものができたという点まで重なる。新たな野球人生への出発点に立ち、杉山が秋晴れの空を見上げて言った。
「中日のユニフォームを着て最後に対戦した相手が、アイツで良かったです」
(小西亮 / Ryo Konishi)