阪神の正捕手は「梅野じゃなきゃダメ」に―専門家が指摘する大きな“進化”

阪神・梅野隆太郎【写真:荒川祐史】
阪神・梅野隆太郎【写真:荒川祐史】

元捕手で阪神OBの野口氏が見た梅野の成長「自分がやらなければ、という自覚が芽生えた」

 ソフトバンクの3年連続日本一で幕を閉じた2019年のプロ野球。セ・リーグでは、レギュラーシーズン最後の6試合全てに勝利して逆転でクライマックスシリーズ(CS)進出を決めた阪神が、後半戦の勢いのまま2位DeNAをファーストステージで破ってファイナルステージに進出した。巨人に敗れて“下剋上”とはならなかったものの、昨年の最下位から順位を上げてAクラス入りと巻き返した。

 今シーズンの阪神を支えたのは、12球団トップのチーム防御率3.46をマークした投手陣だろう。なかでもリリーフ陣の安定感は群を抜いていた。その投手陣をリードしたのは、入団6年目の梅野隆太郎捕手だ。昨シーズンからレギュラーに定着し、2年連続ゴールデングラブ賞を受賞。65年ぶりに捕手のシーズン補殺記録も更新(123補殺)し、チームの要となった。
 ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーし、昨季まで2年間はヤクルトでバッテリーコーチを務めた野球解説者の野口寿浩氏は、今季の梅野について「なんとかして投手に勝ちをつけたい、なんとかしてチームを勝たせたい、という部分が今年は見えました。自分がやらなければ、という自覚がどんどん芽生えていきましたよね」と指摘する。元捕手として、阪神のOBとして、その“成長”をどう見たのか。

 阪神の正捕手は、現監督の矢野燿大が長らく務め、2010年はメジャー帰りの城島健司が引き継いだが、その後は複数の捕手を併用。梅野が入団した2014年は正捕手不在だった。そんな状況で、梅野の出場機会は「どちらかと言えば、奪い取ったというよりは、与えられたというところから始まりました」と野口氏は振り返る。

 ただ、レギュラーではない捕手は与えられた数少ないチャンスを活かそうとして、それが裏目に出ることがあるという。一方で、レギュラーを掴み取れれば“余裕”が生まれ、それがプラスに働くと野口氏は話す。どういうことか。

「自分が若いころから口酸っぱく教えられたことは、目配り、気配り、思いやり。これがキーワードになっていて、一から叩き込まれました。若手や、たまにしか試合に出られない捕手は、この試合で自分を売り込まなければ、と思ってしまう。そうすると、良くも悪くも突拍子もないことをやってしまったりします。それが失敗すると『やっぱりあいつはまだまだだ』となりますし、たまたま成功したとしても、次に同じことをしてもうまくはいかない。逆にポジションを掴んでしまえば、1試合ではなく3連戦で考えられるようになりますし、1週間のローテーションで考えられるようになります。“自分が生き残るため”ではなく、投手を中心に考えられるようになります。余裕が出てくるのは確かです」

 その“余裕”と“自覚”が今シーズンの梅野には見られたというのだ。実際に、投手の良さを引き出すリードが見られるようになったと野口氏は評価する。梅野のリードで「良くなった」投手として名前を挙げたのが、守屋功輝投手、島本浩也投手の2人。守屋は57試合登板で2勝2敗7ホールド、防御率3.00とブレーク。島本も今季63試合登板で4勝0敗1セーブ11ホールド、防御率1.67の好成績をマークした。特に、守屋については「壊れかけた試合、ビハインドの場面で投げることも多かったですが、そこでしっかり建て直せたのは梅野の力も大きかったですね」と振り返る。

「去年から今年1年間で『梅野じゃなきゃダメだ』というふうにチームの中でなりましたよね」

 初めは「与えられた」ポジションを自分のものにしきれなかった梅野が、この2年間でチームの柱の1人にまで成長したというのだ。

守備面での余裕は打撃面にもプラスに、捕手には珍しい盗塁へのこだわりも…

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