わずか半年で欠かせない戦力に…未経験者の可能性を証明した函館稜北、最後の夏

練習後に校歌を歌う函館稜北の野球部員たち【写真:石川加奈子】
練習後に校歌を歌う函館稜北の野球部員たち【写真:石川加奈子】

来春閉校するGLAY母校、最後の夏へ向けた未経験からのスタート

 第102回全国高校野球選手権大会の中止が決まり、約1か月。代替大会、引退試合、上の舞台、将来の夢……。球児たちも気持ちを切り替え、新たな目標に向かってそれぞれのスタートを切っている。新型コロナウイルスは彼らから何を奪い、何を与えたのか。Full-Countでは連載企画「#このままじゃ終われない」で球児一人ひとりの今を伝えていく。

 来春閉校する函館稜北が最後の夏を迎える。江差、上ノ国と連合を組み、12日の初戦で函館工と対戦。強豪校を倒し、胸を張って校歌を歌うつもりだ。選手5人とマネジャー2人による練習の仕上げは校歌斉唱。江差と上ノ国の厚意により、試合に勝った場合は函館稜北の校歌が流れることになった。嘉堂秀也主将(3年)「勝って笑って校歌を歌うことができれば」と強豪相手にも臆するつもりはない。

 ロックバンドGLAYのTAKUROとHISASHIの母校である同校は、北島三郎の母校である函館西と来春統合。39年の歴史に幕を下ろす。文字通り最後となる大会は、ギリギリまで単独出場の道を模索していた。2年前に東海大を卒業して母校に赴任した24歳の澤田篤生監督は、野球未経験者を積極的に勧誘。助っ人選手があと一人足りず結果的には単独出場を断念したが、今いる選手5人のうち2人は野球未経験者だ。

 中学時代にサッカー部だった横田泰成(3年)は強肩強打の外野手兼速球派投手に成長。昨年12月に入部した村上楓弥(3年)も投手として実戦登板を果たすまでになった。「ここまでできるというのは新たな発見でした。今では他校の先生からも『どの子が未経験者だっけ?』と言われるほどです」と澤田監督はその成長ぶりに目を見張る。

 自分のフォームを動画で確認させながら、1か月毎に目標を決めて徐々にステップアップを重ねた。「例えば横田の場合は、最初の1か月は落下地点に入って捕ることを目標にしました。投げる方はまだできなくても大丈夫と。村上の場合は、指にかかったきれいな回転のボールを投げようということからスタートしました」と澤田監督。少しずつできることが増えていった二人は、野球の魅力にどっぷりはまった。

「足が遅くてサッカーはあまり得意ではなかった」と笑う横田は「野球はバッティングなど一人一人の技術があった上でのチームプレー。最初は外野にすら飛ばせませんでしたが、3年間で成長できました。大会ではチームに尽くしたいです」と力を込める。一方の村上は、最後の夏に単独出場したいという澤田監督の思いを意気に感じて昨年12月に入部。野球を見るのは大好きながら、やったことはなかったというが「燃えやすく、満足いくまでやりたいタイプ」という自己分析通り、冬季間は週1回函館オーシャンのブルペンで投げ込んだ。コロナ禍による約2か月の休校期間中も毎日ランニングのほか、近所の公園の壁に的をつくって一人で黙々と投球練習。投球フォームや連係プレーもプロや強豪校の動画を見て研究し、イメージを頭に叩き込んだ。澤田監督も「コロナ期間で一番伸びた選手」とその努力を認める。

未経験者が持つ大きな可能性、部員減少に悩むチームにとってもヒントに

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