自分の弱さと向き合った20年 “代走屋”鈴木尚が積み重ねた228盗塁の歴史
意識して作った「表情」、「はったりでもいいと」
――プロ20年、巨人一筋で過ごされました。引退セレモニーでもファンの声援に感じることがあったと思います。
「自分の力を後押ししてくれたファンの声援は、僕にとって絶対に欠かせない必要な存在でした。大いに力になるんですけど、時にはプレッシャーにもなり(笑)。でも、常に期待されていることを実感させてくれました」
――代走という失敗の許されない一発勝負の場面で出場。ただでさえプレッシャーは大きかったと思います。
「最後まで慣れた感覚はないんですけど、最初は大変でした。代走で出場して、リードを取るだけで、自分の心臓の鼓動が聞こえてくる。本当に心臓が口から飛び出してくるくらいの感じでした。歓声も、ヘッドフォンを耳につけている感じで、ボワーンという雑音にしか聞こえない。上体が浮き上がっている気がして、地に足が付かないって、こういうことなんだろうなって思いましたね」
――1軍に上がった年(2002年)は、しばらくそんな感じだったんでしょうね。
「ですね。でも、はったりでもいいと、緊張している顔は見せないようにしました。やっぱり話す時でも何をする時でも、顔と顔を合わせると一番感情を捉えやすい。野球はメンタルが重要なスポーツで、心理的な駆け引きも必要なので、淡々とした顔を作ってましたね。ようやく地に足がつくまで2、3年はかかりました。いつ行っても緊張しなくなるまでには10年はかかりましたね」
――経験を積み重ねる中で、精神的な強さも身についた……。
「周りから見ると、精神的に強く見えるかもしれないですが、決して強い人間ではないです。強かったら、何もしなくても最初から勝負ができる。でも、弱いから、自分をコントロールできないから、結果を残すために準備して、トレーニングを積み重ねて、その一瞬に懸けた。だから、弱者ですね」