メジャー生活50年の名将が語る野球の変化「使えない情報も山ほどある」

選手とのコミュニケーション重視、監督室のドアは常にオープン

 自分には37歳の娘と18歳の息子がいるが、自分の子供に怒鳴ってもいい反応なんて見せやしない。元々、怒鳴って反骨心を煽るようなやり方は好きじゃないし、自分が若い時だって、怒鳴られたらいい気分はしなかったからね。だけど、怒鳴ることが指導法だと思っている人もいる。「お前にはこんなことはできない」「あんなことは無理だ」なんてネガティブな発破をかけることで、「だったら見てろ、やってやる」って選手が奮起した時代もあるから。でも、その方法はもう通用しない。今は、嘘はつかずにポジティブな発破をかけることが大切だね。

 何よりも大切にしているのは、チーム内でのコミュニケーションをしっかり図ることだ。今じゃメールやメッセージ、SNSがコミュニケーションを取るメインの手段で、電話もほとんど掛けない。直接話をすることはとても大切なのに、顔と顔を合わせることはもちろん、電話ですら話をしない世の中だ。

 だからこそ、自分は顔と顔を合わせたコミュニケーションを大切にしているんだ。直接会って話をすれば、表情を見るだけで、正直な気持ちを話しているのか、あるいは強がっているのか、どんな心境なのか察することができる。電話だって、声のトーンを聞けば、うれしいのか悲しいのか、判断はつくだろう。

 自分からコミュニケーションを取ることと同時に、選手から自分に対してコミュニケーションを取りやすい環境を作ることも大切にしているよ。だから、来客がない限り、監督室のドアはいつでもオープンだ。野球のこと、家族のこと、昨日行ったコンサートのこと……。話したいことがあれば何でも、いつだって話しにくればいい。発信するだけじゃなくて、聞く耳を持つことは同じくらい大切なこと。ここで受けた相談は、絶対に口外することはない。

 監督室では、自分は自分の意見を率直に伝えている。もしかしたら、その人物が考えていたことと違うかもしれないし、耳が痛いことを聞かされるかもしれない。でも、それは自分から見た意見であって、1つの参考にしてくれればいい。監督と選手という関係性以前に、1人の人間として、人生の先輩として、同じチームで戦う仲間を思い、1人の責任ある大人の男として成長できるようにサポートすることが大切だから。

 みんな、忘れがちだが、野球選手だって人間なんだよ。喜びもするし、傷つくこともある。スタンドの客席に座るファンと同じ人間なんだ。監督は買い物に行くんですか? なんて聞かれることもあるけど、もちろんだ。妻に「あなた牛乳買ってきてね」なんて言われて、スーパーに出掛けることだってあるよ(笑)。だからこそ、野球をきっかけに知り合った選手たちには、立派な人間に成長してもらいたいんだ。

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 時代と共に野球を取り巻く環境は変わりつつあるかもしれないが、野球を愛し、野球に愛される人の在り方は、何も変わらないのかもしれない。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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