「強かったな、ほんまに」最後の夏を終えた履正社・安田が漏らした本音
「この悔しさは後輩たちに晴らしてもらいたいです」
だが、自宅通学生も決してすべてが自由という訳ではない。履正社には元来、寮という設備がなく、帰宅時間も学校で定められている。小テストなど勉学のため毎日早朝登校するなど、練習に割ける時間には限界がある。だからこそ、限られた時間内での創意工夫された練習を身上としているが、新たな歴史を刻むには、また違った“改革”が必要になってくるのかもしれない。
「今日は彼らが最大限の力を発揮してくれた。よく戦ってくれたと思う。春からワンランク、ツーランクもレベルアップさせてあげられなかった監督の責任です」
試合後、普段は己に辛口な岡田龍生監督が履正社ナインを称えた。それぐらい力と力でぶつかり合い、全力を出し切った試合。選抜大会の決勝カードと同じ組み合わせにふさわしい、ハイレベルな戦いだった。
準々決勝までの6試合で3本塁打を放った安田は、汗をぬぐい、時折笑みをこぼしながらこう語った。
「負けたことは悔しいです。最後の最後まで自分たちも諦めていなかったし、ベストなプレーはできたと思います。これからも履正社の野球は続いていくので、この悔しさは後輩たちに晴らしてもらいたいです」
取材が終わると、若林と副主将の安田は大阪桐蔭ナインへ千羽鶴を託しに行った。
「明日も勝って甲子園に行って、春夏連覇を目指してください」
あいさつをした後、大阪桐蔭の西谷監督に頭を下げると、主将の福井、そしてエース徳山に声を掛けた。自軍のベンチ裏に戻る道すがら、安田は若林の肩に手をやると、こんな言葉を掛けた。
「強かったな、ほんまに」
主砲の言葉に頷きながら、履正社を率いた主将・若林は、激戦の余韻がまだ残る戦いの場を静かに後にした。
(沢井史 / Fumi Sawai)