高校野球で投球制限しても遅い―医師警鐘「指導者次第で子供の将来は変わる」

高校野球での投球制限やタイブレークの導入が検討されるが…

 今年も夏の風物詩、全国高等学校野球選手権が開幕した。各都道府県大会を勝ち抜いた49校が、“聖地”甲子園で熱戦を繰り広げる。来年で節目の100回を迎えるこの大会。頂点を目指して戦う球児たちの思いは100年の歳月を経ても変わることはないが、彼らを取り巻く環境は大きな変化を見せている。

 近年では「180球の熱投」「エースが3連投で投げきる」といった事実が伝えられると、従来の「感動した」という声が上がると同時に、「登板過多では?」「投球数の制限をするべき」といった声も多く聞かれるようになった。また、日本高校野球連盟では、来年の春夏大会から長い延長戦を避けるために「タイブレーク制度」の導入を検討中だという。

 こういった議論が始まった背景には、いくつかの理由がある。投手の場合、登板過多による肩肘の故障が、在学中、もしくはプロや大学、社会人へ進んだ後で多発する事実だ。怪我のために選手生命を短く終えてしまうこともあれば、野球を辞めた後ですら日常生活に支障をきたす場合もある。

 野球選手としてのピークを高校で迎えるべきではない、という考え方が広まってきたことも理由の一つだろう。甲子園に出場し、優勝することは、高校球児にとって不変の目標だ。だが、プロ野球選手を目標とする球児にとって、高校は通過点の一つ。高校で燃え尽きてしまう(燃え尽きさせてしまう)のではなく、次のステップに向けての育成の場であるべきだという声が多く聞かれるようになった。

 実際に、投球過多がどれほど高校球児に影響を与えているのだろうか。プロ野球選手の治療にも数多く携わり、自らトミー・ジョン手術(肘靱帯修復手術)の執刀をする慶友整形外科病院(群馬県館林市)の古島弘三医師によれば、現在は高校生でも年間約50人がトミー・ジョン手術や胸郭出口症候群手術など、投球障害が原因の手術を受けているという。

「いわゆる名門と呼ばれる高校では、半数近くの球児が肩肘に故障を抱えています。高校入学後の練習方法や投球過多にも問題はありますが、実はそれ以前の問題。小学生や中学生の成長期に投げすぎたり、痛みを我慢して投げ続けた結果として、高校生になって大きな故障が生まれる。もちろん、高校で投球制限やタイブレーク制度を取り入れることは、球児の健康に対する注意喚起を呼び起こす上で大きな意味を持ちますし、大きな進歩ですが、障害をなくす手段にはなっていません。それ以前の少年野球の段階から対策を取らないと、根本的解決には繋がらないと思います」

小中学生に多い障害「OCD」とリトルリーグ肘は指導法次第で回避可能

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