現役の終着点は「わからない」 栄冠と挫折を味わった井川慶が求めるモノ
判然としない引き際、「もしかするとそれを探しているのかもしれない」
「うーん、こればかりはその時々に気持ちも変わるし、わからない。でも1つ変わらないのは、年間を通じてマウンドに登り続けるためにプレーするということ。だから『いつ引退する』とか、『今年で最後にする』なんて思ったことはない」
投手として最後の花道を飾りたい。最高の打者と勝負して終わりたい。納得の行くボールを投げ込みたい。よく聞く言葉である。しかしそれに類似するような言葉が井川から聞かれることはない。
「どんなボールを投げたい。これだけ良い投球をしたい。そういう欲求はまったくない。場面や試合じゃないんですよ。僕は年間を通じて継続してマウンドに立っていたい。それだけなんです。そのためにできることをやる。結果や周囲の評価はあくまでそのあとについて来るものだと思っていますからね」
投手というのは「孤高の存在」である。また昔から「お山の大将」とよく言われるように、我が強く、自分を矢面に出したがる人間が多い。ところがこの男に関してはまったくそういった部分が見えない。
「だからいつ辞めるかなんて本当にわからない。今年はここまで自分自身で順調に感じている。このまま最後まで投げ抜きたい。結果、気持ちの変化もあるかもしれない。そうじゃないかもしれない」
「投げ抜いた先にしか答えはない。だから今はやれるべきことをしっかりやって、次の登板に備える。その繰り返しですね」
投手としての美学は10人いれば10通り存在するだろう。それは井川慶にも間違いなく存在する。
「『十分投げられた。だから引退します』、といつなるのか……。もしかするとそれを探しているのかもしれないですね」
※1ロジャー・クレメンス…ヤンキースなどで活躍。メジャー24年間で354勝、4672奪三振を挙げた豪腕投手。
◇井川慶(いがわ・けい)
左投左打。1979年7月13日茨城県出身。97年ドラフト2位で阪神入団。06年ヤンキース、12年オリックス移籍。17年兵庫入団。NPB通算219試合登板93勝72敗1セーブ、1279奪三振、通算防御率3.21。MLB通算16試合登板2勝4敗、53奪三振、通算防御率6.66。
(山岡則夫 / Norio Yamaoka)
山岡則夫 プロフィール
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。