広島の選手たちの“原点” 由宇練習場の存在意義の大きさ

由宇から這い上がろうとする思い、「大野からここへ向かう時にそう感じます」

 この日、胃がん手術を終えて復帰を目指す赤松真人(※3)が術後、久しぶりの屋外練習ということで由宇練習場を訪れていた。

「赤松に関しては現状はリハビリ中ですが、その後がやはり大事。でもどういうレベルの選手かはわかっている。どこまで戻せるか、そして越えられるか。ハードルは高いけど、心から応援しています。実際、今日、外に出てボールを握って本当に嬉しそうですよね」

 いろいろな選手が混在する組織の中、水本にはやるべきことがたくさんある。

「ファームには答えがない。でも1つ確かなのは、カープが強くなることが最も大事なこと。ここ十何年やって来たことがようやく形になり始めている。ここで萎んでしまっては、少し前の低迷期に戻ってしまう。強くなり始めてファンも増えている。順調に進み始めた今こそ、原点を忘れてはダメ」

 選手にとって由宇練習場の存在位置というのは、絶好の場所なのかもしれない。最新の機材や設備が揃った住居隣接の練習、生活環境。いつも多くのファンが足を運び、サインや写真を求められる施設は『恵まれた環境』とも言える。しかしプロとして重要なことは、1軍のフィールドで戦力になること。その原点がここ=由宇にあるのではないだろうか。言ってみれば真逆のような環境であるからこそだ。

「去年の優勝、そして今年も。やっぱりチームの一員としては嬉しいですけど、どこか複雑でもある。自分がそこにいることができていないから……。悔しい気持ちになります。若手のいい投手もたくさん出て来て、彼らとも一緒にやっているのでぜひ頑張って欲しい。でも負けたくない気持ちも強い。やっぱり由宇にいてはダメなんですよ。大野からここへ向かう時にそう感じます」

 夏の終わりを感じさせる少し涼しい由宇でも、福井は大粒の汗を流しながら語ってくれた。

 平日昼間のデイゲームだが、500人ほどの観客が由宇には集まった。決して多くはない数字ではあるが、この熱烈なファンたちもカープ躍進をサポートしている。また芝生席に椅子やテントを持ち込み、思い思いに試合を楽しんでいる。

「今日は休みを取りました。遅めの夏休みです(笑)。ここはノンビリできる。野外フェスみたいな感じで昼からビール飲みながら寝転んで試合見るのが楽しい。今日は大瀬良大地(※2)も下にいるし、他にも良い選手は多いですよ」

 確かに、試合を見ていると若手で「これは……」と思わせる素材も多く見受けた。鈴木誠也(※4)や西川龍馬(※5)が這い上がって来る姿も見て来たのだろう。そうすれば思い入れや感情移入も強くなり、より強く応援したくなる。その周囲の姿勢がさらに選手の後押しをする。

 山口にある少し時代とかけ離れた由宇練習場。ここがカープ躍進の一端を担っているというのは大袈裟であろうか。

※1:#89水本勝己
捕手、89年ドラフト外で社会人・松下電器より入団。1軍出場なし。

※2:#10岩本貴裕
左投左打。08年ドラフト1位で亜細亜大より入団。強肩強打で内外野とも守れる器用さも持つ。

※3:#38赤松真人
右投右打。04年ドラフト6位で立命大より阪神入団、08年カープ移籍。俊足強肩強打で頼れる外野のリーダー。

※4:#51鈴木誠也
右投右打。12年ドラフト2位で二松学舎大付高より入団。16年ベストナイン、ゴールデングラブ賞を獲得。4番を任され、打線を牽引したが、現在は負傷離脱。

※5:#63西川龍馬
右投左打。15年ドラフト5位で社会人・王子製紙より入団。天才と呼ばれる技術と勝負強さを誇る左打者。

【了】

◇山岡則夫
1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年に Innings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして 様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿してい る。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選 手たち」(株式会社舵社)。 Ballpark Time!オフィシャルページ (http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。

(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。

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