「あのネクタイは額に入れてある」―元マーリンズGMが語るイチローとの日々
話しても話しても尽きることがないイチローとの思い出
あの時もらったネクタイ――。それは2015年5月18日に行われた本拠地ダイヤモンドバックス戦でのことだった。成績不振に伴い、電撃解任されたマイク・レドモンド監督に代わり、この日から監督代行となったのが、直前までGMだったジェニングス氏だった。異例の人事は大きな話題を呼んだが、試合前のダグアウトで慣れないユニホーム姿に緊張の面持ちを隠せなかったジェニングス氏の元へ歩み寄ったイチローは、おもむろに球団カラーのオレンジのネクタイを首に掛ると、大きな笑顔でハイタッチをした。
「あの時の心遣いも深く心に沁みたよ。あのネクタイは私の宝物。額に入れて家に飾ってあるから、まぁ、返してほしいって言われても返すつもりはなかったけどね(笑)」
同年のシーズン最終戦。今度はジェニングス氏がイチローに粋な計らいを見せた。敵地フィリーズ戦で“投手イチロー”がメジャーデビューしたのだ。
「イチが投げたがっていたのは知っていたから、よしやってみようってね(笑)。彼に伝えたら『本当ですか!?』ってビックリしていたけど、すぐに『分かりました』って満面の笑みを浮かべていたよ。慣れない監督をやり遂げたのも、イチを中心にチームがまとまってくれたから。それぞれ別の球団に旅立った今でも、みんなと連絡を取り合っている。私の野球人生で特別な時間になったよ」
イチローとの思い出は、話しても話しても尽きることがない。背番号51と過ごした日々は、額装されたネクタイとともに、いつまでもジェニング氏の宝物として輝き続ける。
(佐藤直子 / Naoko Sato)