今夏、大阪桐蔭が最も苦しんだ一戦 履正社の先発右腕が明かす逆転劇の真相

9回2死走者なしから逆転負け「大阪桐蔭打線はさすがとしか」

 1点リードで9回2死走者なし。勝利まで、あとアウト1つ。その状況下でも、実のところ濱内は冷静だった。「あと1アウトと思ったら、絶対にやられると思いました。見ている方からすれば“これで決まった”と思ったかもしれませんが、自分は油断はダメだと。大阪桐蔭の打者は選球眼がいい。1人出たら分からないとも思っていましたし、打者に集中しました」。

 この分析は、不運にも当たってしまう。2番の宮崎仁斗(3年)は冷静に四球を選んだ。続く打者は3番の中川卓也(3年)。だが、その時ひとつだけ後悔したことがある。

「何球目かに中川君が三塁方向にファウルフライを上げたんです。その時に『捕れる!』って思ってしまって。心の中にスキができたというか、少し油断してしまって。(結果は捕球ならずファウルに)。そこでもう一度気持ちを入れ直そうとしたのですが、一度でも油断をすると気持ちを整えるのは難しいんです。そこから集中力が切れてしまって。あの場面が全てでした」

 中川、そして4番の藤原恭大(3年)にも四球を与えた。「もう、この回はほとんどストレートしか投げていなかったですね。指先の感覚がどうだったか、ほとんど記憶がないんです」。体に力が入らず、下半身の踏ん張りもきかない。どの球も抜け球になり、ストライクが取れなかった。「最後は相手の打ち損じで何とか抑えるしかなかったです。気持ちも体力も、あの時の自分では抑えられませんでした。それでも最後までボール球をぶんぶん振らずにしっかり見てきた大阪桐蔭打線はさすがとしか言いようがないですね」。根尾に押し出し四球を与えて同点とされると、山田に勝ち越しの2点適時打を浴び、4-6で敗れた。

 この夏は受験準備が忙しかったため、甲子園の試合はほとんど見ることはなかった。ただ、ライバルの春夏連覇達成を知った時は「素直に心の底から“おめでとう”って思いました」という。ずっと倒そうと思ってきたライバル。昨春のセンバツ決勝、昨夏の大阪大会準決勝、そして今夏の北大阪大会準決勝。何度も熱戦を繰り広げたが、勝てなかった。それでもくすぶるような感情はまったくない。

 濱内にとって大阪桐蔭とはどんなチームだったのか。「今まで、大阪桐蔭って中田さん(=翔・現日本ハム)や浅村さん(栄斗=現西武)、藤浪さん(=晋太郎・現阪神)がいた時は、絶対的な柱がいて、打線にかなり破壊力があると感じていました。今年も根尾(=昂)や藤原ら凄い打者はいましたが、過去と比べると相手をねじ伏せるような圧倒的な力は感じなかったんです。でも、今年の大阪桐蔭は“負けないチーム”でした。追いつめられても、下を向かない。厳しい場面になるほど気持ちでぶつかってくる。“凄い”ではなく“上手い”選手が1番から9番まで続いている。“圧倒的”ではなく“最終的”に勝っているチームでした」。

 野球ではしのぎを削ったライバルでも、大阪桐蔭の主将・中川とは開会式や抽選会、あらゆるところで顔を合わせては互いの近況や調子を報告しあったりする仲だった。大阪桐蔭の控え左腕の横川凱投手とは開会式で待機している時など雑談などもしながら話し込むほど親しくなった。そんな“球友”の偉業達成は喜びでもあり、自身の発奮材料にもなる。そんな好敵手たちと戦ったこの激戦を通して濱内が感じたものは、とてつもなく大きかった。

「この試合後、投手として自信がついた……とか色々言われましたけれど、それはないです。むしろ、野球の難しさを感じました。今までなら9回2死で走者なしだと、1点のリードでも完全に勝ちだと思いましたが、それは思わなくなりました。1アウトを取る難しさ、大変さ。これから野球を続けていくうえで、そのあたりを大事にしていきたいと思います」

 大学では、チームから要望があれば投手をやってみようと思っている。「自分からやるかは分かりませんが、両方準備はしていきます。これからは、どんなかたちでも出来るだけ長くレベルの高いところでプレーしていきたいですね」。甲子園にはたどり着かなかったが、濱内にとって高校最後の夏は、“野球人”として備えるべきものをまた教えられた貴重な瞬間となった。

【画像】9回2アウトから劇的なドラマが… 今夏、”王者”が最も苦しんだ対履正社戦のスコア詳細

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