不用意な四死球、押し出しはなぜ起こる? プロの目で原因を探る

ベテランでも球場の雰囲気に飲み込まれてしまうことも

 五十嵐の場合、ヤクルト時代の1試合換算した場合の与四死球数は、10年間で4.1個(570.0回を投げて258個の四死球)。同様にソフトバンク時代が5年間で3.8個(233.2回を投げて99個の四死球、17年まで)。MLB時代は3年間で6.8個(73.0回を投げて55個の四死球)。単純比較はできないが、、セ、パ両リーグではそこまで変わらないが、MLB時代はかなり増えているのがわかる。圧倒的なパワーを誇るメジャーの打者に対して、ゾーン外での勝負が多かった結果であることが予想できる。

 五十嵐は現役でも最年長の部類に入ってきた。ブルペンを任され、日米で多くの修羅場をくぐり抜け経験を重ねてきている。それにもかかわらず、球場の空気感に飲みこまれてしまうことがあるという。

「マウンド上では球場の雰囲気がビリビリと伝わる。そういうものに流されてしまうこともある。ピンチ、特に満塁の場面で、押し出しはやめろよ、というのは感じる。スタンドの声はよく聞こえますしね。そうすると意識していないようで、無意識に考えてしまって四死球を出してしまうこともある。そういうのがないように普段からトレーニングしているんですけどね……」

「本当はマウンド上では無の状態が良いとは思う。ゾーン、ではないけど、何があっても動じなくて、自分の世界に入っている状態。でも難しいんですよ。例えば、ピンチの時に声援で励まされることも多い。アドレナリンが出るのを感じる。常に自分の世界で冷静にいるのか。その都度、周囲の期待をしっかり受け止めるか。どっちが良いのかは、いまだに答えが出ないですね」 

 ひとりぼっち、まさに孤独な場所である。「常にテレビに映るだけあってシンドイ仕事ですよ」とかつて語っていた人もいた。まもなくプロ20年目になる大ベテランでも、未だにコントロール不能に陥ってしまうほどの場所。それがマウンドである。

 試合が壊れるのは四死球が絡むことも多い。それが原因でワンサイドや勝敗が決した場合ほど、見ていて納得できない展開はない。しかしマウンド上の投手は見ている側からは想像できないほどの大きなものとも戦っている。今、どういう心理状況でいるのだろうか。それらを想像するだけでも、投手の見方が楽しくなってくるだろう。

(山岡則夫 / Norio Yamaoka)

山岡則夫 プロフィール
 1972年島根県出身。千葉大学卒業後、アパレル会社勤務などを経て01年にInnings,Co.を設立、雑誌Ballpark Time!を発刊。現在はBallparkレーベルとして様々な書籍、雑誌を企画、製作するほか、多くの雑誌やホームページに寄稿している。最新刊は「岩隈久志のピッチングバイブル」、「躍進する広島カープを支える選手たち」(株式会社舵社)。Ballpark Time!オフィシャルページ(http://www.ballparktime.com)にて取材日記を定期的に更新中。

RECOMMEND

KEYWORD

CATEGORY