戦力外でもあえてのプロポーズ 元10勝投手が「二人三脚」で目指すNPB復帰

独立リーグで戦うこと以外にももう一つの大きな決断「結婚してほしい」

 中日時代の最高年俸3600万円から考えると、年収ベースで15分の1以下になった。加えて、縁もゆかりもない栃木の地。練習場まで車で1時間かかることもある。NPBに戻れる保証も全くない。そんな逆境でも、若松は「オレっぽい場所」だと言う。無名の福岡・祐誠高からドラフト7位入団で始まったプロ人生。さして周囲の期待を感じない環境で、その右腕だけでのし上がってきた。「全てを覚悟してやるしかない」。男としてのけじめをつけるのも、当然だと思った。

 19年が明けて間もなく。婚姻届を入れた封筒を手渡し「結婚してほしい」とプロポーズした。沙苗さんは冷静になって1か月考えた末、仕事を辞めて栃木にやって来た。「苦労するかもしれないけど、そばで支えたいなって」。2人で始めた慎ましい新生活。10万円単位の買い物でさえ値札を見ることがなかった若松が、今ではスーパーの安売りの日を狙って買い物に行く。賞味期限は必ずチェック。外食するときも食べ放題の店を好んで選び、腹を満たす。「欲しいものはありますけど、今じゃないかなって」。我慢も覚悟のひとつ。生活が落ち着けば、婚姻届を提出する。

 4月7日。群馬ダイヤモンドペガサス戦で独立リーグ初先発し、7回5安打3失点で初白星を挙げた。夕日に照らされるバックネット裏のスタンドには、もちろん沙苗さんの姿がある。二人三脚で、またあの華やかな場所へ―。若松の目は、2桁勝利を挙げた時のようにギラついてきた。「意識しすぎず、結果を積み重ねた先にNPBがあるはず。いつか、さな(沙苗さん)に楽をさせてあげたい」。背負ったものが大きい方が、きっと強くなれると信じている。

【写真】NPB復帰を目指し力投する若松駿太をスタンドから見守る“フィアンセ”の沙苗さんの後ろ姿

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