【あの夏の記憶】“金農旋風”から1年 サヨナラ2ランスクイズの当事者が語る舞台裏「決めちゃえ」

サヨナラ2ランスクイズで準決勝進出「次の塁を狙う姿勢を教えてもらった。それが生きた」

 あの夏から1年が経とうとしている。

「もう決めちゃえ、と思いました」

 甲子園球場の二塁ベースで菊地彪の気持ちは固まっていた。

 2018年8月18日。金足農は近江との準々決勝を戦っていた。5回に1-1の同点に追いついたが、6回に勝ち越しを許し、1-2で9回を迎えた。この回の先頭、6番・高橋がカウント2-1から左安で出塁。無死一塁で打席に入ったのが7番の菊地彪だった。中泉一豊監督からのサインは送りバント。「ボールだと思ってバットを引いたらストライクで」と変化球で1ストライクをとられた。続くサインはバスターエンドラン。バントの構えからスイングしたが、菊地彪は空振りしてしまう。

「ランナーは必ず走ってバッターは必ず当てないといけないので、自分は当てなきゃいけないと思い、精一杯でした。自分が空振りしたら、ファーストランナーの高橋は足が遅いので絶対にセカンドでアウトになるんですよ。空振りして、『あ、やばい!』と思ったら、高橋が走っていなくて、ラッキーと思いました。高橋は走らない方がいいなと思ったらしくて、それで走っていなかったらしいです」

 サイン通りとはいかず、カウントも2ストライクに追い込まれたが、一塁走者が生き残っている状態で命拾いした菊地彪。そこで「打つしかない」と気持ちがパッと切り替わったという。一塁牽制と1ボールを挟み、ファウルで食らいついた後、左前に落ちる安打でつないだ。一塁ベース上で「ふ~っ」と息を吐いた。

「ここで三振とかだったらやばいなと思っていました。戦犯じゃないですか(苦笑)。三振したらどうしようと怖かったですね。ボールが高めだったので当てることができたんですけど、低めだったら引っ掛けていたかもしれません」

 無死一、二塁とし、8番・菊地亮太はバントの構えをしたが、カウント1-3からの5球目も外れて四球。菊地彪は二塁に進み、場面は無死満塁となった。当然のことながら、三塁走者の高橋がホームを踏めば同点。自分がかえれば逆転サヨナラ勝ちの意識はあった。

「バッターが9番の斎藤璃玖だったので、絶対にバントだな、スクイズで来るだろうなと思っていて、一応、準備はしていました。コーチから次の塁を狙う姿勢を教えてもらったので、それが生きたんだと思います。もう決めちゃえ、と思いました」

 練習試合では2、3回決めたことがあるという2ランスクイズ。心構えはできていた。打席の斎藤は初球にバットを引いて1ボール、2球目は打つ構えから見送って1ストライクでカウント1-1とし、3球目を三塁側に転がした。

「ショートとセカンドが前進守備をしていたので、ショートと一緒に出て行って、そこからバントをしてゴーという感じでした。打球がサードに転がっているのを見て、送球しているのを見ながらホームに行きました。でも、サードがボールを離してからは見ていません」

 三塁手の左側に絶妙に転がった打球。打球を処理する時に三塁を回っていた菊地彪は迷わず、走った。両腕を伸ばし、ヘッドスライディングでホームイン。

「手が入ったなと思いました」

 ここが甲子園だろうと関係ない。チームが勝つために、練習や試合でやってきたことを出す。冷静に戦況を読み、自分の役割を果たす。練習に裏打ちされたそんな姿勢が「サヨナラ2ランスクイズ」を生んだ。

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