侍J撃破へ意欲を燃やすベネズエラ代表の日本人トレーナー「東京五輪の出場権を」
治安最悪ベネズエラでは盗難は日常茶飯事、ゲリラ銃撃戦も「ビノ・ティントの一員として頑張りたい」
仕事を離れれば、ウクレレを手に歌声を披露する趣味を持つ本間氏。ベネズエラのウインターリーグではオールスターや公式戦で試合前に国歌斉唱を務めたことも何度もある。トレーナーの仕事は長時間に渡り、苦労も多いが「ケガから復活した選手が試合で活躍して『ケイト、ありがとう』って言ってくれる時が一番嬉しいですね」と、やりがいを語る。ベネズエラの治安は悪く、遠征に向かうバスがゲリラの銃撃戦に巻き込まれ、銃弾で窓ガラスが割れ、同乗していた選手がケガを負ったことも。仕事で使うパソコンや薬、ハサミ、爪切りなどの盗難も日常茶飯事で、近年は経済状況の悪化に伴い、食料の調達にも苦労しているが、それでもラテンの野球をこよなく愛し続けている。
12-13年、13-14年には所属していたナベガンテス・デル・マガジャネスでウインターリーグ優勝も経験。ベネズエラ代表として、中南米各国のウインターリーグ王者の頂点を決めるカリビアンシリーズにも2度出場した。そして、今回は3度目のベネズエラ代表。日本で行われるスーパーラウンドに進出すれば、東京五輪出場も近づいてくるだけに、まずはオープニングラウンド突破に全力を注ぐ。
「日本を離れて長いので、日本の選手は名前すら知らない選手もいます。自分は日本人ですが、今回はベネズエラの代表の一員なので、日本戦も全力で勝ちにいきます。でも、日本とベネズエラの両国がスーパーラウンドに進めることを願っています」
チームにとって誤算だったのは、代表のスタッフらが、本間氏が台湾でも通訳ができると思っていたことだという。「中南米の人たちは、日本も中国も台湾も同じ国だと思っていて、言葉が違うことを知らない。だから、てっきり僕の話す言葉が台湾でも通じると思っていたらしいんです。でも、さすがに中国語までは話せません」。日本語、英語、スペイン語を流暢に操る本間氏も、これには苦笑いだ。
ベネズエラは現在、政治的な混乱が続き、深刻な経済状況の中にある。それだけに、選手たちは野球で母国に明るいニュースを届けたいという思いに燃えている。壮行会ではカルロス・セベーロ監督が「3500万人のベネズエラ国民、そして子供たちの思いを胸に、戦っていこう。野球の代表チームとして、政治とは切り離して頑張っていこう」と話をしたといい、本間氏も「国がこういう状態なので、代表=国と思われている部分もあるが、この代表チームはそうではない。勝てば政府が野球を利用してくる可能性もあるが、スポーツと政治は別。ビノ・ティント(スペイン語で赤ワインの意味。ベネズエラ代表の愛称)の一員としてしっかり頑張りたい」と熱く語る。
今大会、北中南米各国の中で最上位の国には東京五輪出場権が与えられる。本間氏は「東京五輪出場が決まったら、もちろんフィリーズの仕事を辞めてでもベネズエラ代表として日本に行きたい。五輪に行ける人なんてなかなかいませんからね」と、ベネズエラ代表の一員として東京五輪で日本に凱旋できる日を楽しみにしている。
(福岡吉央 / Yoshiteru Fukuoka)