DeNAドキュメンタリー映像制作の舞台裏 撮影監督が400時間の映像に込めた想い

筒香が残したもの、残された選手が感じたもの 辻本監督「来年も大丈夫だな」

 もう1つ、辻本監督が驚かされたことがある。それは筒香の視野の広さと観察力だ。

「筒香選手は本当に良く見ているんですよ。ちょっと落ち込んでいる選手には素速く声を掛ける。野手だけじゃなくて投手のことも、本当にチーム全体を見ているんです。象徴的なのがロッカーの位置。何となくベテランやチームの主力になると部屋の角だったり入口から遠い奥だったり、座りそうな位置って決まっていると思うんですけど、筒香選手はロッカールームで真ん中に座っている。主力としては珍しい位置ですよね。もしかしたら、全体を見るということを意識した位置取りだったのかもしれません」

 何よりもチームを優先させる筒香キャプテンの思いは、チームメートにもしっかり伝わっている。作品の中で、守護神・山崎康晃が筒香なしの2020年を想定して自身の考えを明かす場面がある。辻本監督が「僕はこの2年間追う中で山崎選手のああいう姿を見たことがなかった」と振り返る印象的なシーンだ。また、シーズンが終盤に迫るにつれ、内野守備の名手・柴田竜拓の内面に起きた変化もまた、訴えかける力を持つ。

 今季の作品は「戻らない瞬間、残されるもの。」というサブタイトルがつけられた。これはシーズン終盤に掲げられた「一生残る、一瞬のために。」というスローガンに因むと同時に、辻本監督が作品から感じ取ってもらいたいものも表している。

「2つあるんですが、1つ目は筒香選手が出ていくかもしれないという状況で、残される選手たちの気持ちの成長が描かれていると思います。僕も2019年のベイスターズを撮る上で『筒香選手がいなくなった場合、来年は大丈夫なのかな?』と思った部分も正直ありました。ただ、1年追い続ける中で『来年も大丈夫だな』ってポジティブな楽しみを感じたんですよね。それを伝えられるような映像を目指しました。

 もう1つは、筒香選手がチームに対して残していきたかったものを、彼の言動を通してしっかり伝えられるようになっていると思います。そこを味わっていただきたいですね」

 最後の試合を終えた後、筒香を追うカメラはキャプテンがチームに伝えたかったもの、残したかったものを、その真摯な思いとともに映像として記録した。メジャーに旅立つ筒香、キャプテンを送り出して新スタートを迎えるベイスターズが、それぞれ明るい未来へと踏み出す姿は、見る者の心にしっかりと刻まれるはずだ。

(佐藤直子 / Naoko Sato)

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