元鷹守護神・馬原孝浩氏はなぜトレーナーに? 「こういうトレーナーがいれば」を体現
「150キロを投げる感覚、かかる負荷なんて投げた人にしか分からない」
「自分がこういうトレーナーがいればいいな、というのをずっと思っていたんです。現役の感覚を知っていて、実績があって、そして国家資格、知識を持っているという人がいなかったんです。じゃあなろうと思って、いざなってみたらそのフィールドには誰もいないんです」。確かにそうだろう。プロ野球選手としてタイトルを獲得するほどに成功し、ワールドベースボールクラシックにも2度出場した経歴を持つ。それでいて国家資格を手にし、トレーナーとして第2の人生を歩んでいる人など、ほぼ聞いたことがない。
だからこそ、自らが今は“オンリーワン”の存在なのだという。「簡単に真似できるものではないと思いますし、自分が散々受けてきた挙句、それを還元、出しているもの。感覚的には受けた人は違うといいますね。アスリートにはアスリート専用の見方があるんです」。教科書に書かれているものではなく、そして、一般の人でもない。アスリートにはアスリートにしか分からない、通じない感覚がある。それが分かる“アスリートのための”トレーナーを馬原氏は志している。
「選手の感覚はなかなか分かってあげられないんです。150キロを投げる感覚なんて投げた人にしか分からない。そこにかかる負荷とか、球場内のため息とか、歓声とか、野次だとか受けた人にしか分からない。そういうストレスもそう、そこでかけて欲しい言葉とか、こういう風に声をかけて欲しいとか、やってきた人間には細かく分かるので。そういうのってなかなか分からない。そういうのを伝えていければ」
将来像もいささか異なる。例えば球団トレーナーだったり、個人の治療院を開いたり、パーソナルジムを開くなどの道も考えられるが、馬原氏は「そこは目標にしていない」と言い切る。「この先、自分が野球界に戻るんじゃなくて、トレーナーたちをどんどん育成していって、どんどん輩出していきたいんです。『馬原式トレーナーメソッド』というものに認定を出して、その認定を取った子たちが選手に付いて、どんどん選手が結果を出していく」。目指すのは“アスリートの感覚が分かる”トレーナーたちの育成。そのために「アカデミーとかスクール、学校を作る」ことも考えているという。
このオフの自主トレ期間中でもトレーナーを目指す青年たちが日替わりで馬原氏の元に勉強に訪れている。この日も初対面だという若者がいた。「そうやって現場の空気を感じるだけでも成長、勉強になる。どんどん受け入れてます。こちらからしても助かりますからね。手伝ってくれたり、バッティングできたり、守備についてくれて、と。肌で感じて選手と触れ合う機会は彼らも絶対にないので」。もっと多くの“アスリートの感覚が分かる”トレーナーを育てたいという馬原氏。志のある若者であれば「どんどん受け入れる」と語っていた。
(福谷佑介 / Yusuke Fukutani)